探偵道
2016年8月31日 カテゴリー:雑記
自宅近辺はまだまだ自然が残された地域であり、野鳥も多く桜の季節は並木道を通るなど通勤経路は季節や気分によってコースを日々変えている。
私が調査対象者となり、自宅を開始場所とするならば、少々厄介かもしれぬ。
このようにいつも同じパターンの通勤経路ではなく、家々がぐるりと円形に立ち並び、坂を下りた先の道には毎朝、園児を見送ったママ友達が2時間近く立ち話をしていて、身を隠す車を置く場所が私の視界で確認するにほぼない。
ある年末のことだった。
調査員N氏がアポなしで我が家にやってきたことがあった。有り難いことに年末にそれぞれのスタッフの家をまわって自家製餅を配るため、連絡をする間がなかったのである。
私の携帯電話に。
「今、川瀬さんの家の付近にいますが餅持ってきましたよ~」
私は自室の二階の窓から驚き、愛猫と共に顔を出すが姿が見えない。
はよ餅食べたし、N氏よいずこ。
「川瀬さんの顔見えてますよ~」
私は愛猫と共に驚き、出窓からターミネーターのごとく周りを注視するが声は聞こえども姿は見えず。
よくよく目をこらすとN氏の車が、木々に覆われたわずかな場所にひっそりと隠されるように駐車され、その陰に嫁のお手製のカウチンセーターを着たN氏が手を振っていた。
だが、なぜ普通に我が家の前に車を駐車しないのか疑問でもあった。
N氏は探偵歴四半世紀。
身に着いた職業は仕事でない時でもこうして常に24時間探偵道を貫き続け、張り込み体制でいることに。
時刻は夕刻、次はどこに行かれるのですか?と聞くと、静かに「K嬢さん宅に向かいます」と言った。そこは約西へ30キロ先であるがやはり同じように姿を見せず声だけのサプライズ登場する気であろう。
依頼人の指定した時間前に対象人物が動き出したことがあった。疑わしき日ゆえ早めに設定していたが、それを超える早朝に動き出していた。
これは当社のミスではないが、あらゆる情報を使ってUSJにいることが判明する。当日は休日ともあって入場者数は数万人。オープンして数時間たっていたが、1時間後に発見したとの連絡が入いり、まさに動物的センスともいえる探索だった。
私は毎朝、庭先で水やりをかねて深呼吸をしたり、ストレッチをしている。すでに老人たちしかいないこの集落の誰からも任命はされていないが、見守り安全隊長となり、見慣れぬ車があると知らぬ間に注視している。
そして、坂を下りると広い道に出るが、そこに数日見慣れぬ不審な車を発見する。この集落の者をターゲットにするならば東西に抜ける1本道で、ここはベストポジションである。
不燃ゴミを捨てる際にそれとなくチェックすると、シートを倒した中年の男性がいた。いかにも探偵使用の車に見えるのは20年近くこの職業をしてきた感としか言いようがない。
そして、はるか先に同じような車がチームを組んでいるかのようで東側にも確認する。けして同業者の邪魔をする気はないが、街で何度も探偵を確認したことがあるので、もしや探偵であれば密かにエールを送りたい。
尾行開始は夕方の本番に備え、出勤確認の早朝が多く、近隣住人にも不信に思われぬように、状況により数時間そこに待機していることもあり非常に過酷な接近戦をこなして続けている。
時々、事件で不審な車や人物を見かけた・・という情報があるがそれは偶然居合わせた探偵だったのではないか・と思ったりすることがある。
・・・・いや、違う。
本物の探偵は気づかれることはないはずで、どんな困難な場所であろうとそこから開始することがすべてであろうと。
長年、そばにいることで痛感する探偵ならではの会話のセンスや、ライフスタイルは時に涙、時に爆笑。まだまだ先とは知りつつ年末恒例のN氏の姿見えぬアポなし来訪を誰よりも待っている私がいる。