天神橋筋商店街19
2019年2月20日 カテゴリー:雑記
天神橋筋商店街を事務所に向かって歩いている時だった。
ピンっとくる瞬間がある。
私にはわかる。
おぬしが今、この地に初めて降り立ったばかりの迷い人であることに。
そう、きっと、おぬしはネットで有名な、昨晩テレビでで紹介されていた店が探せない人であることに。
日本一長い長い天神橋筋商店街。
降り立った場所によっては見当違いの場所に向かい、迷い人になっていく。
親切を越えたおせっかいの私は迷宮の森に迷い込まぬように、そっと近づき、さあ早くいいんしゃい!店の名を!!はい!その寿司屋は全く逆方向なのだ!!と。
私は何人何十人の迷い人をここ数年救済してきた。
そして、時間の許す限り丁寧に対応しその店を指差し、或いはご年配の方については店前までアプローチすることさえある。
まさに天神橋筋商店街の中心にいた時だった。
ふいをつかれて後方から声をかけられた。
婦人は私と同年齢ぐらいだろうか。思いつめ何かを秘めた面持ちであった。
「天神橋商店街ってどこですか?」
なんという愚問であろう。
今まさにあなたが立っているところから南北に伸びたこのアーケード全てが天神橋筋商店街なのですとお伝えするが、何か心をふるわせながらそこに立ち尽くす婦人である。
聞けばとある地方都市から来たようで、50年前に天満界隈に母が住んでいた町らしく、最後に暮らした場所で母がこの場所を懐かしみ、いつかもう一度訪ねたいと言っていたのだが、ついぞそれを叶えることは出来ず、思い立ちここにやってきたのだという。
一体母が通っていた店はなんという店だったのかわからぬまま、インターネットなど余り得意ではないようで、始めてこの地の活気と賑わいにのまれてしまっているようだった。
私は50年前ならばもっと活気があって、今以上に商店街は賑わいはあったのではないでしょうかと伝えおく。
風景は変わっても天満市場界隈や看板に書かれた字体で古いお店を見つけながら歩いてみたらきっとお母さんの通われたお店もあるでしょうと言うと、婦人は笑顔になって天満駅方向へゆっくりと向かって行った。
目的の場所のない道案内は初めてであるが、手書きの地図でも書いて渡しておくべきだったかと後悔したが、いらぬお世話であろう。
グーグルマップなど使わず、過去とのランデブーをしながら、あてどなく散歩できるのがこの長さが魅力の天神橋筋商店街である。
かつて、天満市場付近で疲労困憊、迷い人になっていた80をゆうに越えた男性を思い出す。
お助けしようとお訪ねの地を聞くもモジモジして要領を得ない、少しはにかんで「東洋ショー」と小さく発したつぶやきをキャッチするも私の知る脳内地図では発見できずグーグルマップの力を借りた。
杖をつかれていたこともあり、看板の見えるところまでご案内したが、いつも感じることがある。どんな迷い人も目的の場所が近づくと皆、必ず小走りになっていかれる。
天満宮のお膝元でお仕事をさせていただく身として、この参道で迷い人を出さぬようと矜持がうずき、そんな姿をながめながらほくそえむ私がいる。