いつか離婚する日
2018年11月07日 カテゴリー:雑記
いつか離婚するために生きている人たちがいる。
今すぐではない。
そのいつかは人それぞれで、今の仕事がひと段落したら、両親が亡くなったら。
子供が成人したら、私はいつか離婚するのだと常に心の片隅にあるらしい。
結婚生活のほとんどを別居し、浮気や借金を重ね、DVや数々の問題行動を起こし、破綻の一途をたどる母に娘がなぜ離婚しないのかと尋ねたとき「それでも、お父さんには純なところがあるから」と言ったのは女優、樹木希林である。
過去の樹木希林の夫婦の向き合い方の語録では、実りある豊かな生活を共にすることではなく、激しい喧嘩もなんのその、問題が起きた時こそ夫婦として人として試されているようで、複雑怪奇な世界がそこにあった。
悪魔のような夫と対峙する時、それは夫の狂気ではなく自分の狂気だと気づかされ、そんな破天荒な夫であるからこそ、自分の中にある抱え込んでいる闇が抑えられているという実に難解な解釈だった。
ただ彼女は多くのお金を稼げるトップ女優であり、一般人の私たちは誰にも賞賛されず限られた小さな世界で生きているので、足元をぐらつかされるとたちまち生きていけなくなる。
浮気の確証を取ってその報告書を見た時、あれほどまでに即座に離婚にこだわっていたのにようやく事実を確認すると憑き物が落ちたかのように落ち着き、心はいつか離婚する日のためにと離婚を先伸ばしにしていく。
その調査報告書がクローゼットの奥に置かれていることを夫は気づかずに暮らしているのだが、大手探偵社にいた時代は壁一面の鍵のかかった書棚に依頼人から預かった調査報告書が保管されていた。
個人情報の観点から、調査報告書は必ず依頼人が管理してほしかったのだが、家族と暮らす依頼人にとっては万が一、自宅で倒れた時、隠された報告書が発見されることを心配し、懇願され預かったのだった。
3分に1人が離婚している時代でも、探偵社にやってくる相談者は離婚を考え依頼するのだが実は離婚しない人たちも多く、それでもやはり離婚への思いも捨てきれず、心は千路乱れ結婚生活は苦悩の中にいる。
婚約時代に夫が書いたラブレターを見せてくれた依頼人がいたが、君のいない人生など考えられないという、熱い気持ちが込められた求愛で、いつからこんな風に歯車が狂ってしまったのかを妻は延々と考えてしまうのだった。
樹木希林も夫がはるか昔に書いた、これまでの自堕落な暮らしの反省と妻への偏愛のような求愛の手紙を大切に保存していたという。きっと心が折れそうになったとき何度も読み返していたのではないかと思ってしまう。
夫婦というものは複雑な感情の中にあって、関わり過ぎてしまうせいか愛情と怒りに満ちていることを知っているからでしょうか。
いつか離婚する日を願う人は、きっと離婚などしたくないのだろう。そう思うと人間は岐路に立たされて初めて見える世界がある。