不倫事件簿5
2018年9月28日 カテゴリー:雑記
トンボは古来から前に進む吉兆の表しである。
後退知らずの不転退(決して退却しない)の象徴として勝ち虫と呼ばれるが、田んぼのあぜ道などで飛び交う姿を見つけると秋の到来と幸福を願う。
男性(44才)は赤トンボの世界で第一人者であったという。
「人と関わることを好まず自然を相手にする生態学の研究者となったが研究のため訪れた奄美大島にて自然が失われていく様子を目にしたことで、住民に自分の思いを伝えたいと考え「何かを変えたり、守ったりするには、人との関わりが不可欠」であるとして、教育者を志すようになった」(ウイキペディアより抜粋)
女性(25才)は環境保育を目指し、大学の実習生時代に赤トンボに興味を持ったようだ。そして法恩寺の山頂で羽に印の付いた赤トンボを発見したところから、大きく人生が変わっていく。
なぜなら、その赤トンボは男性が平地の水田で孵化したもので研究のため印を付け、平地から高地に移動し生息していることを立証し、本来捕まえることも非常に困難なのだが、女性はその羽を掴んだのである。
女性が赤トンボをつかんだ写真を見ると、子供のようなきれいに切り揃えた爪だった。何か生真面目さが伝わってくるようで私は赤トンボよりも爪を眺めてしまう。
これがきっかけで男性の赤トンボの研究のパートナーとして活動を共にし、その熱き尊敬がいつしか追いかけるように生態研究のために男性の住む地へ居を変え、片時も離れない距離感になっていくのだった。
セミナーなどでは女性も語ることも多かったが、パートナーといえども収入はなく、生活費を切り詰め細々と男性の妻が作成した「赤とんぼTシャツ」販売していたという。
男性の妻は常に傍らにいる女性の密接の深さに疑惑を持ちながらも、子供を育てながら、女性とも家族ぐるみの付き合いとなり、夫のトンボ研究を誰よりも応援していた。
だが、ふたりの関係は最悪な結果をもたらし、男性は女性を車の中で絞殺してしまうのだが、それは女性側から呼び出され懇願された嘱託殺人だと主張した。
その理由について、女性が男性に対して夢中になりすぎて「境界性人格障害で愛情に飢えていた」「何度も自殺を繰り返し、このときはやむを得なかった」などと訴えていた。
事件前に、LINEで「死ぬのを許されないなら一家を殺す」「妻子が消えるなら犯罪者になっても厭わない」「関係を)マスコミにばらす」というメッセージを送信していたからだ。
検察側は男性の気を引くためだけで「家族を失ったり危害を加えられるのを危惧、特命准教授の地位を失いたくないので、犯行に及んだ」と被告を断罪している。
ラインという現代の第二の言語は単なるその場の流れにのった言葉のやり取りでしかないのだがこうして残されれば脅迫であり、真の心の声ともとらえられ、残されたラインだけが狂気のようにトピックされてしまう。
恋愛はある種の洗脳にも似た世界をつくり上げてしまうことがある。愛は知らぬ間に幾重にも形を変え、いつしか消し去りたいほどの憎しみに変える。
赤トンボの正式名は「アキアカネ」。
赤くなっているのはオスだけで縄張りを守るために長時間紫外線に当たり赤くなったという。近年、環境の悪化と共に減少している。
悠然と自然を舞っていた吉兆。自分はやはり選ばれたのだと思ったのではないだろうか。ただ眺めていればどんな人生だったのだろう。
きっと追いかけて捕らえたのではない。赤トンボは待っていたかのように女性の元でゆっくり舞っていたのだ。そして、そっと静かにあの指に止まったのではないかと思ってしまう私がいる。
「2015年 教え子殺人事件」