探偵365日
2018年9月05日 カテゴリー:雑記
子供の頃、台風がやってくると聞けば何か心浮き立った。
学校は明日休校になるだろうと耳にし、自宅では母が電気が止まることを懸念しておにぎりをたくさん握っていて、いつもと違うただならぬ夜の気配を感じていた。
どしゃぶりの雨の中、長靴を履いた父が早く帰宅して、庭の周りを大工道具を持ってうろつき、自然の脅威を感じ取ったのか、お向かいの犬がいつもと違う声で鳴いていて、ようやく自宅に入れられているのを見て安心するのだった。
深夜、風雨に目が覚め、そっと雨戸を開けると竜巻のような風が吹き荒れ、木々がなぎ倒され、渦巻きの中には何かが舞っていて、しっかりと丸太で作られた犬小屋は影も形もなくなっていた。
浮き足立っていた気持ちが一気に吹き飛んで恐怖の中眠りについた。
いつからか、そんな台風の夜を忘れていたが、ここ数年の台風は尋常ではなく、山間に住む築30年の我が家は常に防災カーが回るようになり、携帯電話の非難情報はけたたましい音で鳴り響く。
台風が過ぎ去った朝、近所の小路を歩いていると大木がなぎ倒され、古い邸宅は瓦を落とし、何かが暴れまわったかのような爪痕を残していた。
そして、探偵業も台風が来るからといっても仕事が中止になることはあまりなく、
むしろそんな状況であるからこそ密会するのではないかと依頼がある。
阪神大震災は未曾有の大災害であったが調査員は連日調査を行っていた。
実のところ依頼は多く、夫が家族の隙を見て浮気相手のところへ生死の確認に向かおうとするのではないかと思ったからである。
男が避難所をあてどなく探しまわる姿は家族であるなら涙を隠せないのだが、何を隠そう不倫相手を必死で探し回っていたのだ。
現場に向かうのも一苦労、道なき道を進むものの、情報が今ほど取れなかった時代で、まだまだ余震の続く中、その現場は複雑な人間の感情をあらわにしていたのかもしれない。
このような状況から不倫の男女は何があっても会うのだと知る。
何か影に隠れて密会しているように思うが、明るい太陽の下、家の近所であろうと気にせず接触し手をつないで歩いていることも多い。
それが台風であったとしても、何かの災害であったとしても依頼人の心の霧は晴れようもなく、探偵は365日動いている。
どうか秋の風は穏やかでありますように。
この災害で被災された方々に心からお見舞い申し上げ、一日も早い復興を祈念いたします。