ストーカー行為20年
2018年6月26日 カテゴリー:雑記
ドラマ化された太宰治の「カチカチ山」は従来の話も残酷だが全てが何やら変わった嗜好のストーリー展開で複雑な情愛を現代劇に置き換え、それぞれが巧妙な騙し合いをする話である。
美しい女(兎)
醜男(狸)
老婆(狐)の3人劇で男のストーカー行為からこのドラマは始まる。
男は美しい隣人に恋焦がれるが気持ちを伝えることはおろか、眺めることしかできなず常にオドオドするばかりで屋根裏に忍び込み、女の生活の全てを密かに知ることに喜びを感じる変態男である。
女もいつからか覗かれていることに気づき、大胆になり、男を翻弄し始める。女は狡猾に男を上手くそそのかし資産家の老婆の金を目的に養子となることを指南し、話は狐と狸と兎の騙し合いになっていく。
20年以上前のドラマだが、これまでの2時間サスペンスにはない随分とマニアックな脚本だなと思ってみていた。
このドラマを思い出したのは、ある女性に20年間ストーカーをしていた男性が逮捕されたニュースで知ったからだ。
人を好きになることには罪はないが、一方的なその行為がすさまじいまでの恐怖を与えるものになってしまうことがあり、カチカチ山のドラマでは女が悪女として面白おかしく扱われていたが、実際にはその行為は犯罪である。
その女性を好きになったのはどんなきっかけがあったのだろう。
一度も会話等はなく、仕事として挨拶として微笑んで、ストーカーが始まったケースもある。
ストーキング行為は被害者となったある女性が高校生だった頃にガソリンスタンドでアルバイトをしていた時から始まったという。
ときめきの気持ちがいつしか麻薬のように毎日会わないと顔をみないと落ち着かないように我慢できなくなったという。
自宅を尾行し、ゴミを漁り、生活の全てを終始観察することで20年という月日の流れは一人の女性の半生を眺め続けてきたわけで、ルーティンワークのように悪意なき日常に変化していったに違いない。
この男性は一度この女性へのストーカー行為で逮捕されたにも関わらず、同じ行為を繰り返したので、警察は警告や禁止命令を出さずに、逮捕に踏み切ったようだ。
人を愛することは一人よがりでも、人を追いつめることでもないが、愛は目に見えないのでそのパワーを見せつけようと愛は複雑に交差し、成就出来ないからこそ想像を超えて、自分でも予期しない最後へと導く。
あなたのことが好きなんですと言えたらどれほど楽だろうと思いながら、月日は流れ、いつしか告白するタイミングを失い、気が付けば相手とは連絡が取れない状況になって、探偵社に所在調査の相談をする人達も多い。
内容から受けられないことも多く、その成就しない思いは果たしてどこに行ってしまうのだろうか。
これまで放置されてきた個人のプライバシーが、様々なストーカー殺人事件が起きて2000年にストーカー規制法が出来たが、現在も命を失いかけない状況でないと警察に相談に行っても真剣に話を聞いてはもらえない。
こういった関係の本は職業柄随分と読んだが、当時ストーカー問題の第一人者と知られた今は亡き岩下氏の本が一番取材力があって内容に腑に落ちて、特別ではない実は誰しにも起きうる問題なのだと今も私のバイブルとなっている。
「人はなぜストーカーになるのか」
文春文庫PLUS 岩下久美子