探偵志願
2018年5月02日 カテゴリー:雑記
なぜか時折、探偵志願の電話が入る。
現在、調査員を募集しているわけではないのに何かでこちらを知ってかけて来るのだろうか。信じられないことにフリーダイヤルにかけてくる人や、深夜、調査員の経験者と言うものの相談電話も入る電話にいきなり延々と自分の経歴を述べる人もいた。
「苦しんでいる人を助けてあげたいんです」
そう語る人もいて、こちらは移動中でも無下に電話を切ることも出来ない。
探偵社は特殊な業界のため、就職するには気を付けなければならないのだが、依頼人と同じく信頼が出来て調査力の高い会社なのか見極めが難しく、不幸にして真面目に仕事をしない、怪しいブラックな探偵社に入社してしまうこともある。
そこで辛い思いをして志半ばで退職した人も多く、職業の始まりは肝心で悪気なく、そのレベルや手法が普通だと認識していて、依頼人から別の探偵社のお粗末な調査報告書を多々見せられて愕然とする。
私は熱望して調査業に入ったわけでもないが、知らぬ間に流れに乗り現在に至る珍しいパターンだと思うが、探偵が長年の夢として探偵社の門をたたく人も多い業界である。
興味のある人にとっては探偵の世界が何か普通ではない面白い世界にように思っているのかもしれないが、はっきり言おう。
とてつもなく大変な業界であることを。
仕事のスケジュールは全て依頼人の都合でしかなく、直近でないと組めないことが多く、土日の休日は多くの調査員が在籍する会社であれば別だが、早朝深夜の帰宅が多い。
なので休日に家族サービスや恋人とのデートなど叶えることが難しいことも多く、長く続けていると自然とこれまでの友人とは疎遠になっていく。
どんな仕事も、働いてみてこそわかる様々な理想と現実のギャップに心を打ちのまされることがあるが、熱い正義感だけでは探偵の世界の荒波を超えることも出来ない。
今の仕事に現実逃避をしてうまくいかず、ならば何か面白そうな探偵にでもなろうかという人は直ぐに挫折してしまう。
私の探偵業の名刺ホルダーには数えてみると100人近くいたが20年を過ぎて、この中で現在も探偵をしている人が3割ほどしかいないことに驚く。
この不規則な生活から体調を崩した人も多く、この仕事が続けられているということは何かを誰かを犠牲にしているのかもしれないと感慨にふける。
それでも一部の人たちには、探偵になってみたいという気持ちが強くあることは、探偵という職業が持つ正義性に尽きるではないかと思う。
そんな探偵志願の声を聞かせていただくと、自分が忘れかけていたピュアな気持ちと現実の厳しさの狭間を付きつけられる。
せっかく得た年月のキャリアも人を怠惰にさせたり、間違った方向へ向かっていったりするので気をつけなければならないが、そんな日々厳しい耐えがたい環境の中で起こる想像も出来ない話が山のようにある。
今は亡き知人の探偵K氏から聞いた話を思い出す。
それは今から30年前の尾行した対象人物で調査は難易度が高く苦労したらしいが、なぜかここ20年ほどその男性と1年に1度必ず道で出くわすという。
それはいつも決まった場所ではなく、様々な場所で突然なので一瞬誰だったかな?と思いながら、徐々に年老いていく姿を見せられて不思議に思い、最後に見たのは依頼人である妻と杖をつきながら仲良く歩いていたという。
我々が関わった時間は一瞬でしかなく、その後の依頼人の人生は果たしてどんな人生だったのだろうと知る由もないが、私はこの話を聞くのが好きだった。
辛いことばかりと言いながら、探偵社で働くことが素晴らしいことはそこで多くの経験した人だけが感じるもので、人間不信になって早々に辞める人もいるらしいが、もう少し踏み込んで人間と関わると嫌いになれなくなる。
なかなかそれを上手くお伝え出来ないことを残念に思います。
あと、探偵志願の方、夜中の電話は相談者のための時間なのでよろしく頼みます。