探偵の家族問題

2017年7月26日 カテゴリー:雑記

猛暑の中の調査の現場が終わり、調査員A氏は疲れ果てた身体を今一度立ち直らせ調査報告書を作成する。

 

ようやく仕事を終え珍しくテレビをつけるとおぞましい事件を扱うドキュメンタリーが流されていたという。その凄惨な事件は誰しもが知る事件であった。

 

A氏は寝床につき、明日の調査も控えすぐに爆睡する。

 

だが人は知らぬ間に寝間に見たその事件が残像として脳裏に焼き付いてしまうのか、日頃の子供への愛情深さもあって、事件が己の夢の世界へと映画のように経験してしまったのだった。

 

愛する我が子がこの事件と同じような被害者となり、夢の中で父は敵と決死で立ち向かうも、見えない力にねじ伏せられ、ただその場で号泣するしかなかったという。

 

ようやく夢から覚めるも悲しみのテンションは下がらず、気づけば頬を涙があふれ止まらずたとえ夢だったと知っても、心穏やかになれず子を案ずる父。

 

A氏は余りの夢見の悪さにすぐに子供の現況を知るべく妻に電話を入れたという。妻は妻とて、こんな時間に一体何を心配しているのかと思ったに違いない。

 

この話は気の置けない仲間達と食事をしていた時に偶然耳にした話で、恐怖で震えながら話すも数分で終わってしまった。A氏の家族とも親しい私は耳をぴくつかせ、素知らぬ顔でいたがその夢の全ストーリーを詳細を聞かせてくれと、今年最も心を揺さぶられた話である。

 

また、調査員N氏は子供の匂いを無性に嗅ぎたくなることがあると小耳にした。

 

50近いというのに、N氏のその思いもよらぬ発言。
私は目をぱちくりするが、赤子の匂いを知っている父は日々子供の成長を嬉しくも切なくも思うのだろうか。

 

恐らく子供たちはもう父と同じ足のサイズ。
もしくは父を超える大きさになっているはずだ。

 

加齢臭のきつくなった父親のべたついたふるまいを疎ましく思い、子供たちは「きしょい、こんといて!!」と、激しい抵抗で避けられたとN氏は寂しそうな顔をしていた。

 

ふと思う。
子供を抱きしめ、その匂いを嗅ぐことが出来るのはいくつまでなのだろうかと。

 

恒例の年末の家族参加の忘年会で、可愛らしく父のズボンの裾を掴んでいた子供たちを思い出す。そして嫌われてもしつこく子供を追いかけまわすN氏を想像し爆笑する。

 

あからさまではないが、弊社の調査員は皆総じて子煩悩であり愛妻家。事務所で談笑している時、私はこのようなネタには非常に敏感なたちゆえ、瞬時に皆、愛に包まれているなこの野郎と思うのである。

 

余り登場させていないが調査員O氏も社内一の子煩悩であり、それを表すエピソードは山のようにあるが、余りにも濃すぎるので、詳細を書くと叱られる可能性があり、ここはあえて記すことを控える。

 

調査員M氏についても社内で子煩悩さについては優劣つけがたい、何故なら彼の休日は子供のための休日であるからゆえ。

 

そして、何より探偵の妻でいることは、どんな職業よりも予定の立たない生活サイクルにいることではないかと思われます。

 

夕飯を食べるのか食べないのか、今日は何時に帰ってくるのなど愚問で20年以上もこのような生活を続けていることは、夫婦の互いの努力の賜物でありましょう。

 

探偵の家族の皆様お疲れ様です。

 

父は家では仕事のことなど何も話さないので理解不能かもしれませんが、依頼人の魂の救済をするべく、この猛暑の中エンジンを切った車の中で熱中症寸前になりながら奮闘しています。

 

そして、いつか子供たちがもっと大人になったら、この魂の救済について、嫌がられても私は語り部になり、この職業の奥深さを伝えられたらいいなと願います。

 

なのでN氏の息子たちよ。
お辛いだろうがどうか辛抱して、しばしその匂いを父に存分に嗅がせてあげてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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