探偵社に依頼するまで
2017年7月07日 カテゴリー:調査記
探偵社にやってくるまでの経緯は長い人で数十年の積年の思いの人もおれば、前日に夫と喧嘩をして勢い余ってやってきた人もいる。
無料相談の約1時間ほどのお話で、結婚してからこれまでの経緯を全て理解することは難しいが、相談者が一番苦しく思っていることさえ理解出来れば解決出来るものとしてお受けしている。
苦しいこと、悲しいことは言葉に何度も現れるものである。
話をスムーズにさせるように相談者の頭の中を整理整頓して進めて行っても、相談者の話はまた始まりの話に戻っていつまでも話が先に進まない。
長年心無い夫の言動やふるまいに振り回され、言いたいことをうまく伝えられなくなってしまったせいか、心を閉じてしまっているようで詳細を聞き出すのことに時間がかかることが多い。
初心忘れるべからず。
20年前に初めて受けた案件を私は思い出す。
娘の家出調査だったが家出したのが20年前で、現在40才になっている娘を探したいと淡々と話す母だった。
どんな理由で家を出たのか、何故今になって探したいのか、数々の素朴な疑問を投げかけても母ははっきりとは答えてくれず、見積り以前に依頼人である母の心を開かせることに大変だった。
だが、私は大いなる間違いをしていたことに気が付いた。
相談者は聞いてほしい人ばかりではなく、悩みすぎて普通に話が出来なくなっている人がいるということに。
20年間一日たりとも娘のことは忘れたことなどなく、家庭の不幸な事情から探し出すことを決意出来たのが今日だったということに。
ただ家出調査や、浮気調査を行いたいだけではなく、その後の自分の人生や、これからの生活の変化、特に離婚は自分だけの問題ではないので相談者は一体どこから何をしていいのかわからなくなってきているのだった。
自宅にいれば辛い現実に突き付けられるので、もう見なかったことにしようと夫とは話を一切しなくなり、会話なき生活は能面のような表情になっていく。
話があっちこっちに飛ぶのは当然で、普通ではない状況であることを先ず一番に理解しながら最善の方法を考えるのが私の重要な仕事なのだと痛感したのである。
当時は仕事で未熟だったであろう相談者のこれまでの経緯を紙芝居のように知ることが中々出来ず、重要なことを聞き出すことに苦労していた。
曲がったアンテナを真っすぐ戻すことは力まかせではなく、自然にこちらを向かせるようにするにはいくつかのテクニックがあるが、心は複雑でも実はシンプルであることも忘れてはならないだろう。
母が隠していた家出の詳細を徐々に聞き出すことが出来て、娘さんを探し出せた日を思い出す。その場所は偶然にも事務所から歩いて10分の古い小さなワンルームマンションだった。
どうやら、調査の神様がいるようでその前を通る時、人は笑顔で普通に暮らしながら辛い過去を持って生きてもいる、それでもいつか人生の仕切り直しが出来て、ようやく紙芝居のラストシーンが見えたような気がした。
なので、相談者が初めにやってきた時は、張り詰めた緊張に包まれていても徐々に安堵感や笑顔になっていく姿を見ると私自身も救われる思いでいる。
そして、相談者から依頼人になれば調査の結果で現実に人生が大きく変わっていく。調査も毎回思案し苦労が尽きないが、これがこの職業の持つ醍醐味であり、身を引き締める緊張の時間が始まる。
今日は猛暑に違いなく気温は30℃を超えているだろう。
調査員を思い、その成り行きを待っている依頼人を思う。