プロのお仕事
2017年1月23日 カテゴリー:雑記
クローゼットにしまわれたまま30年以上は経っている母のコートがある。
そのコートは母が40代の頃に愛用していたもので、デザインが個性的で裁判官の法服に似たハリーポッターの映画に出てくるマントスタイルのコート風で、当時はロングブーツと帽子に羽をつけて、かっこよく着こなしていたことを思い出す。
だが、今現在着用すると体型の変化もあって大きなフクロウがたちすくんでいるようで笑いを誘ってしまい、一体どんな季節に、どんなお呼ばれに、このコートを着用すればいいのかわからんようになってしもうたのである。
母はおしゃれな人で私より多くの衣服を持っていて、今も隙あらば購入するので常にクローゼットは満杯である。
また、このコートを捨てられないのは理由があって、それはかつて今は亡き父がプレゼントしたものだからだ。父はことあるごとに母に洋服を買ってあげる人だった。
「それ似おてるわ。
リボンの騎士みたいやね」
きっと父が自慢だったであろう母の女としての華やかな姿が思い出される。
そして、共に元気だった頃の父の姿も思い出すのである。
だがリボンの騎士マントが、徐々に煎餅のような姿に布地が傷んでいくのを見て、これはお父さんが買ってくれたから絶対捨てられないという母に変わり、思い切って事務所から近い洋服のリフォーム店の「フォルムアイ・天神橋本店」にリメイクをお願いした。
これまで一度だけこのコートを他店で見積りだけお願いに行ったことがあるが、形状から面倒だと思ったのか、受付の人が複雑な表情をずっとしていて、素人の提案について常に否定的で30分で切り上げて帰ったことがあった。
このお店では複雑であるからこそ、プロの腕が鳴るかのようにそのリメイクを楽しんでくださるようでプロにお願いするので、私は余り口出しせず参考画像を1枚だけ見てもらいシンプルなロングベスト風にとだけ提案した。
担当の女性は「ずっと使っていただけるように」と口癖のように終始丁寧な接客をしてくれて「お洋服をワードローブに眠らせない」が社のモットーらしく、まさに再び着用出来る「服活」に向けて打ち合わせに余念がなかった。
そして、かつての形からは想像出来ないほどムードのある仕上がりで、リメイクというものがもたらすマジックを見るようで、あの煎餅コートがふっくらとなってよみがえり、大人のジレ風のロングベストだった。
そして、残った布地で大輪の薔薇のコサージュを作成してもらい、これは母の誕生日にプレゼントするつもりでいる。
リメイクはここでなくても、あらゆるところに同業のお店があり、インターネットで探し出すことも出来るが、その店でお願いするということは心意気がスイッチを押すのだと思っている。
客とはわがままなもので見当違いなことを言ったとしても、背景を知り何を得たいのかをきっちり知ることで、いかようにも受け入れることが出来ることがプロなのだと改めて気づかされる。
母はこのリメイクを見たとたん満面の笑顔で、このロングベストに似合うインナーに素早く着替え何度もポーズを変え写真を撮ったが、私が一番見せたかったのはこのベストをリメイクしてくれた担当の女性だった。
もう母の姿はリボンの騎士には見えなくなったものの、体型が変わっても変わらぬ持ち続けるおしゃれ心を上手くカバーしてくれるデザインとなっていて、気のせいだろうか。
父のお褒めの優しい大阪弁が聞こえてくる。