探偵道4
2017年1月11日 カテゴリー:雑記
ある晩、先輩の訃報を知る。
先輩は私が調査会社に務めた時からのお付き合いで、頻繁に連絡を取り合っているわけではなく、ある時期まで一度も会うことなくただ互いに連絡先を持っているという間柄だった。
先輩から連絡があったのは某調査会社を退職して1年ほど経ち、再就職した仕事はかつて経験していたもののアパメルメーカーで、ようやくブランクを取り戻しつつあった時だった。
「今、何してる?
あるところで相談員を募集している。
もう一度この仕事をやってみない?」
私は、その電話の着信先を見た時から、何かが始まる予感がしていて、なぜか詳細も聞かずイエスと答え、とっさに今抱えている仕事をどうするべきかも早急に考え始めていた。
依頼したい時に良い調査会社を探すことは難しいように、そこで勤務したい調査会社を探すことは更に困難で、相談員は唯一と言ってもいいほど依頼人と深く関わるため悪徳探偵社ならば大変なことになり、その調査力については入社しないことにはわからないのである。
最近知ったある人の言葉から引用させてもらうならば、「誰かを助けるには自分のコップの水を満たさなければならない」
初めて調査会社に入社した頃の私のコップの水は満たされておらず、まさに空っぽの状態で誰かの心を癒やすほどの力などなく、仕事に奔走し振り舞わされ、環境の変化についていくことに必死だった。
それでもその会社で5年間続けられたのは、ここで出会った人たちのおかげなのだと思っている。
それは未知数の私に仕事をさせてくれた会社であり、共に働く人たちでもあり、熱い気持ちで入社しながら理想と現実の違いに愕然として去っていた人、数えきれない思いを持った様々な人たちである。
そんな中でも先輩はいつもクールだった。
この業界では大先輩でありながら、仕事について何かを教えられることはなく、聞かされる昭和の探偵話に笑い、いつの間にか私も一緒に過去を懐かしむことが出来る一人でいられることに嬉しく思っていた。
久し振りに着信が入り、今年こそ何かもっと恩返しをしなければと思いその電話に出た時、その声が先輩ではなかったため一瞬にして私は親孝行出来なかった娘のように泣いた。
今となってはどういう経緯があって先輩が再びこの業界に導いてくれたのかはわからないが依頼人から感謝をされることで大きな自信を持って仕事に臨むようになり、空っぽだった自分のグラスもいつの間にか満たされていったのだろうか。
儚い時間の中にいることを知りながら、心からの感謝を伝える時間がありませんでした。探偵道の道を間違えずに、こちらにいらっしゃいと手を差し伸べてくれた人として私は一生忘れないでしょう。
かれこれこの職業も20年近くになります。
年を重ねるたびに楽になるのではなく、仕事は年々大変さを増していきますが、先輩から得たご縁の中で途切れることなく私は息づいています。
何よりもう私の顔を直視して、真剣に、しつこいくらいにデブって言って下さる人がもういなくなったことを心から寂しく思います。
20年などようやく成人したばかり。
探偵道も始まったばかりなのかもしれませんね。
感謝を思う1年から始まりました。
皆様方、今年もよろしくお願いいたします。