探偵道3
2016年11月08日 カテゴリー:雑記
大阪天満宮の境内の中を一陣の風が吹く。
到来する厳しい寒さの始まりを感じるが、いい風だった。
ここで先ほどまで祭事があったようで、組まれた櫓を眺めいつものように祈念し
しばし身を置かせていただく。
休憩所に座り、空を見上げ明日の天気を思う。
探偵の現場は、ほぼ外にいることが多く天候が行く末を遮ることがある。
風に吹かれ雨に打たれ、熱波、寒波。
台風がやってくる、雪が降るともなれば準備に準備を重ねる。
かつて予想もしない大雪が降りだし、状況から身を隠すことも出来ず、何度も何度も傘で雪を振るい落とすがあっという間に笠子地蔵のようになってしまい、調査はうまくいったが、その姿を想像するに私は涙がにじんでしまう。
調査対象者になるべく人物は余り情報もなく、行動パターンが読めない人物が多く、いきなり新幹線に乗って移動する人もおれば、依頼人の想像を超えるパターンのことが多い。
長年、探偵という職業を続けていると1冊の本が書けるほどネタはあっても、そのほとんどはオフレコで、いくら脚色したとしても書けないネタが多く、人生の一大事にかけた依頼人の心に関わると笑い話にも出来ない。
ゆえ、調査対象者にも個人情報があるので詳細は書かないが、勝手ながら問題なかろうといつもネタにしまくっているのは弊社の調査員の方々である。
私は常に彼らを注視しまくっている。
事務所にいてもあれこれしゃべることもなく、置かれたおやつに手を出すこともなく、寡黙に報告書を打っているが一体何を考えているのか不明である。
例えば、休日は何をしているのか。
意味なく、ただ知りたい。
30年近く男女の愛憎を追っかけ続け、はたしてご自身はその愛憎を身近に眺めどんな風に思っているのか。一人の男として家庭を持つ身として、不倫についての率直な意見をじっくりお聞きしたい。
探偵という職業は男性は憧れもあるらしいが数年で辞める人が一番多く、 一日でギブアップした人もいるほど続けることは過酷だが、誰もが一度はよぎる今の職業を辞めたくなったことはないのだろうか。
調査員とて普通の暮らしを持つ良き家庭人なので、ただ仕事を全うしているのに何をそんなつまらぬことを今更と怪訝な顔をされるに違いないと辛抱している。
風はその場の空気すら変え、心を冷たくさせたり、熱くする。
私自身、風の流れに身を任せるも、この職業をギブアップしかけたことがあった。
どんな人でもこれは一生する仕事なのだろうかと心に疑念が入ることがあるが、そんな時に限って、過去の依頼人から近況を伝えるメールが入り、改めて感謝の言葉が記されて、私は意味ある仕事をしているのだと気づかされる。
探偵道は果てしなく長い道のりである。
人を追い続ける調査員も普通の感性、感覚では到底通用しないので一歩先を読む人間力が高まり自ずと鋭くなって独自の感性が磨かれて個性的になっていく。
あえてこの職業についても何も語らなくなったことは、すでに熟練ともいえる域に突入しているからだろう。
対して私はまだまだ未熟な相談員でそれでもお許しいただけるなら、こうして吹きすさぶ同じ風の中にいることを嬉しく思う。