素行 彼氏の浮気調査
2016年10月12日 カテゴリー:調査記
その恋愛は誰が見ても辛いものだったとしても、当人にとっては唯一無二の相手なのだとしたら、それは他人がどうこう言う問題ではないだろう。
依頼人には長きにわたって交際する男性がいた。
だが余り熱心に働かず、話がこじれると暴力をふるい、結婚で変わるのかと問われたら先行きは不明でそれでもそんな彼を愛し続ける依頼人だった。
面談に入った喫茶店で当時流行っていた平井堅の「楽園」が流れると、依頼人はこの詩がまるで自分のことを慰めてくれているかのようで泣けてくると言って、はらはらと涙をこぼした。
そんな彼に不信を感じて、他に浮気している女性がいるのならば今後どうしていいかわからないと涙は果てしなく流れ続けた。
私は「楽園」はメロディの流れだけに意識していたので、じっくりと歌詞を読んで複雑な感情を表した詩だとあらためて知った。
「パーマネントのばら」という映画がある。
菅野美穂扮する女性が離婚し子連れで、小さな漁村で暮らす母の元に戻り、店を手伝う所からストーリーは始まる。
母は町で唯一の美容院を営んでおり、これといって何もない町で貧しく、店には近所の中高年の女性のたまり場になっていて、毎日うさを晴らしにやってくる。
母も一筋縄ではいかぬ人生で父とは長年別居状態で父は再婚したい女性がいるが、嫌がらせのように離婚を拒否し続け、父の女性も同じ町の母の店にも来る人である。
皆、人生の吹き溜まりを抱えた女たちで、同じくこの町に住む幼い頃からの女友達がふたり、この町に残って暮らしているが恋愛全てが、どうしようもないレベルなのである。
子供の頃からの友人の池脇千鶴扮する女性は交際する相手が全てDV男。小池栄子扮する女性の相手は働かずヒモ状態で、これまたどうしようもない女癖の悪い男なのだった。
離婚後、誰にも内緒で交際している男性に振りまわされながら、どこまでも追いかけようとするが、その恋愛も思うようにならず徐々に心身を病んでいく。
どの恋愛も、はたから見ていて、もうそんな恋愛はおやめなさいなと親友ならば真剣に忠告したいところだが、限られた世界で生きる女たちの実にリアルなまでの生活感を持った映画なのだった。
この映画に共感した人は多くいるようで、ストーリーの魅力を上げるとしたら、生活に根付いた女性の逞しさ、そんなつまらない男たちを支える女性の優しさが満ち溢れているからだろうか。
lineで知り合い、lineで別れ、お互いの修羅を見せ合う業の深い恋愛などしなくなった若い人たちには理解出来ない世界かもしれない。
誰かを愛することは、もう説明のつかない世界にいることで、どれだけ必死で愛そうとしても愛してくれないことの不条理をこの映画の原作、西原理恵子流のエッセンスが随所にちりばめられていた。
調査結果は依頼人にとって人生を大きく変えることになった。
どんな時も男性を支え、たまにパチンコで勝った時に連れて行ってくれる居酒屋で焼き鳥を食べることを楽しみにしていた優しい人だった。
その苦しい涙はいつしか必ず枯れ果てる。
これからまだまだ続く人生のために。