けものたち7
2016年6月23日 カテゴリー:雑記
坂の途中を息を切らしながら、「バセット・ハウンド」を連れた飼い主がやってくる。その姿を見つけると私はどれだけ急いでいたとしても、絶対にスルーすることが出来ない。
電車に乗り、車窓を見つめながら爆笑をこらえねばならんと思うのは、犬と飼い主が全く同じ顔だったからだ。
長く垂れた耳が特徴的な「バセット・ハウンド」。
哀愁を漂わせる眠そうな目で実に愛くるしいが、人間がこの犬と同じ風貌であることは非常に興味深い。
日曜の朝は総勢数十匹の個性豊かな犬たちが飼い主と共に公園にやってくるが、繋がれたリードが離されても私は100発100中犬の飼い主を言い当てることが出来る自信がある。
何故なら、犬の顔と飼い主の顔は、ほぼくりそつだからである。人は犬と出会う時、我が子のように愛し抜くことを誓い、己の顔に似た犬を知らぬ間に選び取っているのだ。
「ミニチュアシュナウザー」が老女と公園でいた。
農場の番犬とも言われ、年老いたかのような風貌と顔を覆いつくすヘアーも知性を匂わせ知恵者のようだ。
ちょっと癖のあるグレーがかった髪色を持つ老女は、ここでいつも何かの哲学書系の原書を熱心に読んでいるが並んだ姿は双子のように見える。
また、最近ここでお見掛けするようなった「パピヨン」も蝶のように広がった飾り毛を持った耳を持ち、中世の時代から貴族に愛され続けている犬である。
だが、いつもリードを持つ人は日に焼けた、何かテカテカしたカメラマン、加納典明に似たおじさんで、私の法則に合わず腑に落ちなかった。
しかし、謎解きの時間はやってきて、背後から追いかけるように小柄な、ひまわりのような明るい華美さを放ったクルクルヘアーの女性がリードを典明から渡され、納得したのだった。
「ブル・テリア」という実に個性的な犬がいる。
犬界のぶさかわキングに間違いないだろう。
このような犬を飼う人は暮らしぶりにも個性的な方が多く、何か文化人っぽいにおいがするのは気のせいだろうか。
私は初めて見た時、闘犬の流れを持ち非常に筋肉質とも聞き、チャンスがあれば触れたい気持ちが抑えきれず、急いでいたが電動自転車から降り、「ハローボーイ!」と言ってしまった。
飼い主の中年の女性は、その特徴的な犬種からいつも声をかけられるのだろう。別段驚きもせず、私がいくつかの質問をしても表情を変えず静かに返答した。
そして、女性をサイドから見た時はわからなかったが、やはり正面から見ると紛れもないブル・テリアの母なのだった。
私は太極拳をするお爺さんの隣で、森林浴よろしく深呼吸をするふりをしながら、犬と飼い主をすべからくチェックしている。
この光景を見るためには日曜の朝は早起きをしなければならない。
心配ご無用、50を過ぎた頃から朝日と共に目覚めるようになった。
張り切って公園へ向かったが早すぎたのか、犬たちはまだやって来ない。優美に太極拳をするお爺さんのところだけ風の流れが止まっているかのようで、その神秘なる気の流れを受けつつ私はラジオ体操を行い、いつもここで彼らを待っている。