探偵の休日
2015年10月15日 カテゴリー:雑記
探偵の休日は不規則である。
早めに休日の予定を入れているが、先の読めない仕事のため素行調査などは休日の行動を見ることが多く、土日や祭日は休めないことが多い。
仕事が最優先になるのは致し方なく、もはや仕事とプライベートが長年、混在した生活にいる我々は仕事の隙間にプライベートの時間を差し込むことも多い。
代表A氏の娘であるN嬢が事務所にふらりとやってきた。
小さな頃から知るN嬢は、いつの間にやら私の身長を超え、その姿は市松人形さんのような涼やかな乙女に成長していて、父がわずかな時間、事務所にいることを知り一緒にランチをと一人やってきたのだっだ。
ある日は調査員M氏の息子がやってきた。事務所で雑務を済ませた後、電車のスタンプラリーに一緒に行くらしく、普段クールなM氏が小さな手を握りながら帰る後ろ姿はグッっとくる。
日頃、家族サービスがなかなか出来ずにいて、当然ながら調査員の休日はほぼ100%家族のためにあるだろう。
例えば夏休みなどはキャンプ、海水浴と遠方へ行くが、中でもキャンプというものは父の力強さを最も見せつけているに違いないと、その家族写真を見て父としての姿にほくそ笑むのだった。
なので、私も万が一にそなえ、病院など1時間以上電話に出れない場合、臀部におできが出来た際も行き先をネット上のスケジュール帳に公開していた。
個人情報を好きでさらけ出しているのではない、即座に対応を求められるシーンがあるため、その際に猶予をいただきたいと状況を伝え察してもらっているのである。
とある休日。
私は某所へ旅行中だったが、ホテルに到着し、カードキーを差し込み入室した瞬間、代表A氏からメールが入った。
「美味しいもの、食べました?」
その後、関西空港に到着、そのまま事務所へ向かおうと、バスに着席したとたんにメールが入った。
「おかえりなさいませ~」
思わず振り返ってしまいそうになるが、このグットタイミングなまでのメールは毎度のことである。
長い付き合いにもなると、私の行動パターンも読み取られているようだが、この瞬間、旅の残り香は消え去り、仕事へのスイッチをオンにさせてくれるのだった。
私は調査員たちのスケジュールを見るのが好きだ。
今頃は、海沿いを家族を乗せた車がキャンプ場に向かって走っているだろうと天候を案ずる。
そして、きっと、子供たちは後部座席に満面の笑顔で座っているだろうと。
子供たちの顔をすべて知っている私はそのはじける笑顔を思い出す。
私の仕事はこんな普通の家族が、ある日から家族との時間が持てなくなってしまい、それがもう永遠に持てないのではと混乱し、その苦しい胸の内を聞かせていただくことである。
17年近く、私の心の中に刻まれたストーリーは、完全に消え去ることがなく、ふとあの時の依頼人はどうしているだろう・・・と思いをはせるも、調査員の仕事によって依頼人は救済してもらえたのだと感謝に尽きる。
特殊な職業ゆえ本来得られるはずの自由な時間など失ったものも多いが、探偵の休日はどれだけ不規則であったとしても、それでも時間を作り、誰よりも家族と過ごしていただきたい。
それは探偵だからではない。
子供でいる時間は短い。
なので、きっと家族のある人たちすべてが思うことに違いない。