探偵と煙草
2015年2月10日 カテゴリー:雑記
NYのブルックリンの煙草屋を舞台にした「スモーク」という映画がある。
とても好きな映画で自分の住む町に、こんな煙草屋があったら、私は毎日そこで一服しているだろうと。
火をつけて、煙草をくゆらす時間は互いに喫煙者であれば、何も語らずとも心地いい時間の中にいて、起きたての一服は眠った頭をピリッとさせてくれるスパイスのようだ。
探偵と煙草。
実にしっくりくる。探偵とBar。探偵とバーボンのように。
喫煙者が減っている中で、喫煙者が多い職業の一つが探偵だろうか。
私の知る限り、調査員の喫煙率は非常に高かった。そして、私自身、喫煙者であったが今年から禁煙にチャレンジしている。
随分昔に海外旅行をした時に、街中で吸えず、レストランで吸えず、ホテルで吸えず、空港の中に昨年はあったはずの喫煙ブースがなくなり、一体アメリカ人は外出した際に、どこで吸うのだろうと思ったが、現在、日本も確実にその方向に向かっている。
禁煙のきっかけは体調管理だけでなく、吸える場所が少なくなったことが多いにあるかもしれない。緊張と緩和、ちょっと1本火をつけたくなる時がある。
おおむね、それは時間がない時で喫茶店などに入る時間がなく、男性ならば灰皿の横で立ち煙草も様になるだろうが、女性はそれが出来ない。
経験者から聞かれる、禁煙は私にとっては思いのほか苦しいものではなく、吸いたくなったら吸えばいいじゃないか~くらいの気持ちで取り組んでいるからだろうか。
同じようにスタートした友人はイライラと頭痛にのたうち苦しんでいるという。
深夜にメールが入る。
「限界灘にいる。ガム噛み過ぎて歯が欠けました。吸っていいですか」
「はい。吸ってよし」
あれこれ言ったところで、本人はそれと十分に向き合い闘っているには違いなく、このような場合シンプルに答えることが一番だと思っている。
禁煙活動とはあくまで自分の問題なので、勝手に吸えばいいのだが、彼女は同志の了解を得ることで嘘のない闘いを続けたかったに違いなく、欠けた歯の治療を急ぐようにもメールを入れておいた。
満月の夜だった。
月をゆっくり覆い隠す雲が、まるで煙草の煙のように見えた。私にはマンションの最上階に住む彼女が、満月にゆっくりと煙を吐き出す横顔が見えるようだった。
時代も移り変わり、探偵の知人の中でも禁煙している人たちが増え、我が社の中でも喫煙者は調査員N氏だけになった。M氏もO氏も長年の喫煙者であったが、禁煙に成功して数年になる。
私は残りの煙草、ライターをN氏に押し付け、捨てるには実に惜しい、煙草入れにしていたキュートな猫ちゃんの缶さえも捨て去った。
私の隣の席はN氏である。
暖房の風向きなのか、N氏が吐き出す煙草のけむりが私を覆いつくす。
私はその懐かしい匂いに目を閉じ、鼻をフンカ・・フンカ・・してエアー煙草を愉しんでいる。