ドラマ・植物男子ベランダー
2014年10月18日 カテゴリー:雑記
結婚していた頃、べランダでガーデングをしていた。
ベランダといってもそこは小さな場所で、煉瓦を並べ、ハーブを植え、季節の花を彩る。
少しでも油断すると思うがように咲かず、水の塩梅、陽の光の当て方も、それぞれ異なり、実に手入れを要するものだった。
散歩をしていて、満開に咲く花、植物がうまく調和された庭を見ると、その庭の主が一体どんな方であるのかを思いめぐらせ、花や植物がどれだけ心を豊かにさせてくれるものかといつも思う。
離婚して、実家に戻り離婚で失った多くのものの中に、今も小さな虚無感があるのは、あの小さな庭を愛でることがもう出来なくなったことである。
深夜、偶然見た番組だった。
そのなんともいえないゆったりとした時間の流れ。
流れる音楽のセンスの良さで、じっとそのドラマを見ていた。
BSチャンネル「植物男子ベランダー」と言う。
舞台は都会の片隅でひっそりと暮らすバツイチの中年の男。
ここで男は植物を育てることが唯一無二の趣味であるが、優雅なガーデナーではない。
男はビールを飲み煙草を吸いながら、ぼーっと過ごすが、時に滑稽なまでの向き合いの真剣さを合わせ持つ。
男の過去も職業もドラマではあまり描かれない。
ほぼ妄想の一人語りでベランダの植物と対話をしている。
だがどれだけ世話をしてもいつの間にか枯れ果てることに衝撃を受け、疑問を持つのだが、他者にアドバイスを求めることがなかなか出来ない。
人知れずこっそり街の花屋に赴いたり、不思議な出会いで現れる人からヒントをもらえるという筋立てになっているのだった。
原作はいとうせいこうのベランダでの植物生育体験を綴った。
「ボタニカル・ライフ植物生活」。
主演は田口トモロヲ。
声は有名であるが、このドラマで初めて全体像を確認した。
ストーリーはあくまで植物とはなんぞやであり、大きな感動も、愛憎も事件もない。植物への造詣はあくまでゆるく、不思議な感覚に陥る映像の美しさと、大橋トリオの音楽がいい感じに合いまっている。
私は最終回を見たようで、「そして俺は途方にくれるの巻」。
何かに熱心に関わることは失敗が大きな成功へと導くこともあり、多少、枯れようが失敗しようが愛情を失うことをしなければ何度でもやり直すことが出来るものである。
かのような流れで、映画「かもめ食堂」にも似た、非常にツボにはまるドラマであった。
私が見たのは再放送らしく全編をみることが出来ないのが残念だが、ネットの評判はよろしいようで再々放送、もしくは続編を待っている。
ベランダの植物は離婚を考え始めた頃から、心の余裕を失い枯れ果てた。転居のため、煉瓦を洗い、使える物は友人に譲り、何もなくなったベランダは心を空っぽにした姿のように思えた。
唯一、月下美人だけを実家に持っていったのだが、忘れた頃に毎年大輪の花が咲き、小さな鉢に3本もの花が天高く、月夜に咲く姿は気高く、植物の神秘に魅了される。
自然に根を張る植物はそこに愛でる人がいることで、変わらぬ姿を見せてくれ、散った花弁が舞っている姿も、ここで自分も根をはって生きている証である。
ドラマの舞台であるベランダから見える美しい夕焼けは、私を泣けるほど懐かしい気持ちにさせてくれた。一度は失ったが、興味のあるものは人生で消え去ることがないと思っている。