7人の女達
2014年8月12日 カテゴリー:雑記
仕事で訪れた見知らぬ街。
少し気持ちを切り替えるには喫茶店での一服が一番である。
その店には先客に7人の女達がいた。
オーバー70。皆、全く同じ様なファッション、髪型、体型。
きょうだいではないかと思うほど顔も同じである。
ここはこの女達の憩いの場なのであろうか。
息継ぎなしの激しいテンポで、どの洗濯洗剤が良いかの話をしているのだった。
主婦歴50年以上、激動の時代を超えた女達の話は実に説得力があり、聞き入ってしまう。
先ず、生れてから死ぬまで誰しもが行う家事の一つである洗濯。
常々、何の疑問も持たずにカップ一杯、そこへそそぎこむ。
だが、主婦道を極めた者は値段だけでない、本物の白さを求めるようだ。
洗濯洗剤だけの問題ではないだろう。
生活に関わるもの全て、何が一番信頼出来て、安全で、お得で、日常の生活を狂うことなく飽きることなく続けて暮らしていけるのか。
7人もいれば誰か一人くらいは会話のテンポに乗れず聞き役に回る者がいるはずなのだが、この恐るべし7人全員が見事なまでの空き時間のない会話のキャッチボールをしている。
約1時間、ハイテンション、ノンストップである。
ガハハ、ギャハギャハ言いながら洗濯洗剤の話だけで。
私は猛暑の中、しばし歩き続けて、ようやくこの駅に到着した。
確かに首に巻いていたはずのおニューの冷感タオルが駅に到着したらなかった。
駅までのひさしの無い一本道のどこかに落としたのに違いない。
身につける何かを失うことは心を気弱にさせるがもはや戻る気力はなく、こうして、このオアシスである喫茶店での一服を選んだのであった。
私は熱中症に近い状態で、涼しい場所で頭を冷やし、そこで仕事の内容を再度精査して、列車発車時刻まで静かな時間を要していたのだが。
全くもって1時間、洗濯洗剤の話を存分に聞かされる。
誰かがお父さんが病院から帰ってくるからと席を立つと全員が財布から小銭を出し始める。
あっという間にいなくなった7人。
喫茶店が一瞬で静寂に、まるで火が消えたかのような淋しさに包まれた。
だが、このような元気な母達、妻達が昼下がり、大声で仲間と喫茶店に集えることも日頃大変な7人達にとって、きっと久しぶりのわずかな一服だったのだろうと。
店主に「一気に静かになっちゃいましたね」と言うと。
「毎日来るよ~多い時は一日何回か来ますよ~」
今回は洗濯洗剤のみのストーリーであったが、毎回どんなネタであんなにも激しく楽しく長時間会話が続けるのか知りたくなる。
残念である。
この喫茶店がご近所ならば再三赴き、70代の女性の消費行動のリサーチャーとして活動が出来るやもしれないと思ったりなんぞする。
だが余りにもうるさすぎるので、個人的には全く休憩出来ぬ。
よって仕事の一つでもある、頭の中を整理整頓する行為がそこでは全く出来ないだろう。
だが、この7人は愛すべき日本の母、妻達である。
このこだわりがあるからこそ、日夜、家事を営むことが出来る。
猛暑が身体も心も疲労させるが、杖に付いた鈴を鳴らしながら帰って行く7人の姿は、今を明るく生き続ける7人分のパワーを頂戴したかのようだった。
いつの日かここへ訪れることがあるのならば、私は8人の女となるだろう。そして、ずっと気になっている「第3の洗剤、ジェルボール」についての意見を聞くつもりである。