依頼人の涙
2014年6月18日 カテゴリー:調査記
長年、顔の見えない相談者の声を聞かせていただいています。
その声はどれだけお話をしっかりとされていても、一気に伝えようと、或いは上手く伝えられないもどかしさで、ただ、声に涙があふれ出していきます。
声の多くは、尖った声、疑心の声。
そして、涙声。
涙ながらに話しているわけではありませんが、普通の会話の流れで涙声で話されているのです。声に涙がのっているのです。
いつも、その声を聞いて相談者の心を知り、涙を流し続けてきた時間の中に
ずっといた人なのだと気づかされます。
声は隠せない心境を現わすもので、母親の心に反応して背後で子供が泣きだし、犬が泣きだし、涙はどこまでも追いかけてきます。
声は聞いてくれる人にだけ、その声に全てをのせて現わしてくれるものだと思っている。
なので、大丈夫と言われても、その声にいち早く気づいてあげなければならないだろう。
そして、依頼人になればそれはもっと深く、声だけではない、相談員とのお話は隠しようもない本音の部分のお付き合いになっていきます。
その声の変化に気がついたのは、調査が終わった1年後。
依頼人の方からの近況を伝える電話がかかってきた時だった。
始まりを知っていた私は、その落ち着いた声を聞いて、これが本当の声で、本来の姿にようやく戻ったのだと、顔の表情、服装すら変わっていたことに驚いてしまう。
苦しい時間は永遠には続かない。
いつもそう依頼人に伝えても、涙に覆われている時は信じることが出来ない。
その依頼人から頂いたのは夫婦で行った旅行のお土産だった。
小さなタッパーの中には手作りの一品が入っていた。
それは夫の好物のようで、夫婦で山歩きで見つけ薄味で炊き上げたという。
ぜひ、あなたに食べてほしかったのと言われ、開けてその場で口にする。
その後は、私が涙することも多く、こんな涙ならどれだけ流れてもかまわないだろうと思いながら、旅の話、一品のレシピ、夫のこと。
かつては話している間、ずっと涙があふれてうまく話せなかったのに、今度は私を何度も笑わせてくれて、逞しくて、そして、どこまでも優しい。