探偵の靴2
2014年3月18日 カテゴリー:雑記
静かな昼下がりだった。
調査員N氏は足を組み、いつものように読書のひと時を過ごしていた。
さて、皆が揃ったところで珈琲タイムでもと思い、代表A氏がN氏に話しかけようかとした瞬間である。
「えー!!!どうしてこうなるの!!!」
A氏は大きく鼻の穴をふくらまし、大きく目を見開きN氏を凝視。 視線の先は、足を組んで一瞬に見えたN氏の靴底であり、信じられないことに靴底は親指約2本分のドでかい穴が開いていたのだ。
素朴な疑問であるが、一体どうやってこの状態で歩いて来たのだろう。
歩くことが主流であるこの仕事を難なくこなし、こうして茶を飲み、まどろみながら優雅に足を組み、読書の時間を楽しんでいる最中ではあるが、私はA氏以上に言いたくなる。
どうして今まで、気がつかなかったの?
何やら、靴はかつてA氏がN氏にあげたものらしく、きちんと磨いて、リペアをすると一生履けるもので、この状態のリペアは瀕死状態であって、無論どこの店で出してもいい訳ではなく、指定する店の名を連呼していた。
N氏は己の靴底問題について、あれ~なんでやろね、今初めて気がつきましたよと、楽しげに穴に指を入れたりなんぞして、必死で笑いでごまかそうとしている。
靴の磨き方は前回同様、リペアの時期、歩き方などをA氏はN氏に伝授していたが、これまでの靴への行いで大きな信用を失ったようである。
一方は、それを愛し、愛でて、どれほど忙しくても、その時がやって来ると早めに必ずその現状を確認してリペアに出す準備を行う。一日酷使した革靴にシューキーパーを差し込み、得心し、家路に着かれるのである。
一方は、靴は究極に言うならば足を守るためのものであろうか。けして、磨いたり差し込んだりせず、穴は己の足裏を突き差して、ようやくその穴を知るのだ。
そんな中、5500年前、世界最古の革靴とされたモカシンタイプがアルメニアの洞窟で発見された事を知る。
想像もつかない、生と死の厳しい環境の中で、人間が常に自然と獣と戦っていたことを現わす身震いするほどのオーラを持った革靴の画像を見るたびに、どうしてだろうN氏が思い浮かんだ。
私は、この兄弟喧嘩のような微笑ましいやり取りを見ていて、いつも笑いの渦に巻き込まれている。
そして、このA氏のどこかで懸念していただろうあの発見がなければ靴底は一体どうなっていたのだろうと思うと、また笑いが止まらないのである。