銀二貫
2014年3月07日 カテゴリー:雑記
「銀二貫」 作家 高田郁
大阪・天満の寒天問屋、伊川屋の主・和助は茶店で偶然にも仇討ちに出くわす。父の亡骸に身を呈し、自らも命を失いそうであった鶴之助を銀二貫で救うことからこの話は始まる。
その懐に入っていた金は小さな商いで身を削りながら必死で工面をしたもので、大火で焼失した天満宮再建のための寄進するものであった。
引き取られた鶴之助は松吉と改め、商人としての厳しい躾と生活に耐え、番頭善次郎、丁稚梅吉、大坂商人、料理人達に支えられ、松吉はその恩義を返すために新たな寒天作りを目指すが、その矢先またもや、大火が大坂の町を焼き払い・・・・・・・。
火事と喧嘩は江戸の華。
だが、当時の火事は一度火がつくと消しようもなく、ただ見守り逃げるしかなく、全てを焼き尽くす。大火との戦いは飢饉以上のもので、これまでの商売の全てを失っても、何度も立ち上がり続けた大坂の商人魂が描かれる。
この物語を現代の時代に照らし合わせると、非常に熱い何かがこみ上げてくる。
働くことの意欲は金だけではなく、商人としての矜持と、どんな失敗をしても受け入れる度量の深さ、心意気を持った主がいるからこそ本物を作り上げることが出来て満たされるのだと。
だが、大坂商人とて善人ばかりでなく、そのやり口に怒りを覚え、血気盛んに相手方に乗り込もうとする松吉に主である和助はたしなめる。
「人にはそれぞれ決着の付け方いうものがある。刀で決着つけるのはお侍。算盤で決着つけるのが商人。(注略)商人にとって、一番恥ずかしいのは、決着のつけ方を間違うことなんやで」
天満宮へ寄進することが信心深い商人にとって、大きな糧であり、大火で焼失した本殿をみて泣き崩れ、その儲けもけして散財することもなく、何度息絶えようとしても、天満宮の再起に奮い立たせる。
命を救った銀二貫が関わった者達にどのような結末を迎えたのか、魅力ある人には魅力ある人を引き寄せて離さず、更に輝かせる影響力があって、4月ドラマ化されることに期待している。
折につけ、天満宮には祈念させていただいているが、この本の舞台となったこの天満で働いていることに嬉しく思う。大川を挟む街並みは変わっても、その魂は大阪の商人であるならば未だ息づいているだろうと願いたい。
そして、この本を私にいちおしした天神橋筋商店街の店主の方から、続々とお薦め本をいただいているが、この本の中のさりげなく書かれた言葉が胸を打ち、次なる本を読めないでいる。