探偵の友人
2014年1月27日 カテゴリー:雑記
漆黒の闇。
極寒の夜。
外での張り込みは、どれだけ防寒の準備の重ね着をしても、それは万全ではなかろう。
長時間、衣服で締め付けたその身体。
突如、背中の辺りが猛烈に火照り、痒みが襲ってきたという。
だが掻こうにも、その幾重にも閉じられた衣服の襟口には指一本しか入らず、そのカイカイの部分には全く届かない。
その現場はいつ動き出すか、シャッターチャンスは一瞬であり、油断していると動き出すもので、一時足りとも気の抜けないのが現場である。
ふと、見回すと傍に壊れた傘を発見する。
安物のビニール傘は風雨で破壊されたのか軸は一本の針金になってそこに置かれてあったという。
普段ならば捨てられたモノを拾い使用することなど考えられない。
だがここは緊急事態である。
これ幸いと襟口から、ソロソロとその針金を入れ込み、さあこれで存分に搔けるかと操作したところ、あと僅かな接近でその場所にたどり着けぬ。
このかなしいまでの絶望感。
この作戦の失敗から、カイカイはこれまで以上の痒さとなり、ついぞ耐えきれず一気に力任せに差しこんだところ、針金は強靭な衣服を突き破ったという。
それを淡々と静かに話をする友人の探偵から聞き、私は涙する。
面白すぎて。
そして、私は想像する。
ミシュランのタイヤマンのようになった極寒の夜に佇む探偵の姿を。
或いは、暗闇に紛れ忍者のように動き刀を差し入れるも、その万全に装備したはずの鎧を己が無残にも突き破ったその瞬間を。
私はダイソーで小さな孫の手があることを思い出す。
それは確か15㎝ほどの竹製でスライド式のコンパクトな一品である。それまでこのような品を誰が喜ぶのだろうと疑念していたが、やっぱりあったかダイソーよ。
実に差し上げるにふさわしい一品であろうと私は入手を約束した。
同じ志でいる探偵の方々、日々本当にお疲れ様です。
その仕事の困難さは相談員として充分見聞きしているつもりでしたが、時に考えられない問題が勃発していることも知ります。
探偵の衣服とは防寒だけでなく動きやすく、目立たず、且つ、緊張の時間を解くことが出来る心地いいものでないといけません。
長年の探偵の友人から聞かされた探偵であるがゆえの多くの試練は時に涙。
調査の神様、どうかお助け下さいと手を合わせます。
そして、日々仕事に真摯に向き合う姿に絶対に笑ってはいけないと。
しかし、想像力が豊か過ぎるところのある私は、目を閉じるとそれがパントマイムのように思い浮かび、激しいまでの笑いの渦に巻き込まれてしまうのだった。