姿の見えない探偵
2013年10月18日 カテゴリー:調査記
家出人案件で、対象人を発見することが出来た時。
相談員も依頼人と同じように安堵とよろこびに包まれます。
早速、発見した場所にいる調査員と私は合流する。1時間以内には依頼人であるご両親も、この現場にやって来るので今、現在どのような状況であるのか詳細を聞くためである。
合流した現場は静かなのどかな町並みで昼間だというに車の往来もなく、今、この場所で見渡す限り存在するのは調査員と私だけである。
ふと、もう一名の調査員は通りの反対の道にでもいるのかしらと訊ねると。
何を言っているんですか?と笑顔で。
「後ろの車の中で待機しています」
少し離れた場所で目立たないように駐車されている車が一台。だが姿は確認出来ない。
しかし、近づいて見るとシートを倒し、対象人物宅方向を目視していることに気がついた。
事態は緊迫しているのだが、この姿を見て誰もが彼を探偵だとは思わないだろう。
相談員は現場の苦悩を経験出来ないので、その一部を垣間見させていただく機会があると、
あぁ・・これぞ探偵なんてカッコいいのだろうと一瞬惚れてしまう。
家出人案件は依頼人との再会を果たさなければならない。
居住を持たない場合、いつまた対象人物が別の場所へと動き出すかもわからず発見しても、
依頼人に会えるまでは安心出来ない。
或いは素行調査でも開始時間が自宅の場合。
依頼をした妻は指定時刻、張り込んでいる車は一体どの車なのか、マンションの窓からつい気になって見てしまったという。
だが、その話しを聞かされても車は調査員の車種ではなく、無論、風体も違う人物を探偵であると妻は認識していたのだった。
映画やドラマでは姿を派手に見せることで探偵を際立たせている。
実際は驚くほど地味で過酷で、その姿を一度でも見られること、気づかれることは調査の失敗を意味することになる。
その失敗は今後、二度と調査が出来なくなり、それを誰が依頼したのかと依頼人が窮地に追い詰められ、姿を見せないこの努力は依頼人のために行っていることなのです。
姿を見せないこと。
身を隠す場所すらなくとも平静でいられること。
それが本物の探偵であることを今更ながら感じるのだった。