カラス
2013年6月05日 カテゴリー:雑記
悩みが深くなっていくと、24時間夢の中にまで苦しみが溢れだすのはどうしてだろう。
気持ちを切り替えて、考えないようにして、と言えるのは幸福の人の意見に過ぎない。
離婚を真剣に考えていた時だった。
ふと見るとベランダに大きなカラスが手すりに止まっていた。
猫を飼っていたのに、そのカラスは恐れもせずに、こちらをじっと眺めている。
まじかで見ると、真黒な大きな姿、とがった口ばし、鋭い眼光。
不吉な予感に包まれて、まるでこの家にもっと大きな暗雲を垂れこめさせるような、
そんな気がして私はとても怖くなったのである。
友人にその話しを何気なく言ったことさえも忘れていたら、自宅にポストカードが届いた。
「その鳥が幸福を連れてくるよ」
と、書かれただけの鳥の図柄のシンプルな絵。
この言葉以外何も書かれていない。
あえて何も意見しなかった友人は、痛みを知る人でもあり、近所に住む友人はきっと、わざわざ、このポストカードを探し歩き、投函してくれていたのだった。
その姿形から不幸の伝承者のように思ってしまいがちだが、古来、吉兆を現わす鳥であり、
映画「キルトに綴る愛」という7人の女性の半生を描いた作品の中では舞い降りたカラスに
導かれながら、真実の愛にたどりつくという神秘的なラストシーンを思い出す。
あれは大雨の翌日だっただろうか。
事務所の向かいの「堀川児童遊園」という小さな公園で、ブランコの下にたまった雨水の中でカラスが水遊びをしているのを見た。
2羽のカラスは羽を大きく広げながら、互いに水を掛け合って、じゃれ合っている。
群れ遊ぶ姿は子供のように愛らしい顔をしていることを知る。
そして、滑り台を何度も何度も、ひょうきんな動き方で、楽しげに滑っているのだった。
休日の夕刻、自宅にいると、ほぼ決まった時刻に現れるカラスの大群。
声を掛け合い、はるか地上を大きく旋回しながら、お山に帰って行く。
夕闇に混じり、群れなす姿は圧巻で、それを眺めながら暮らしている。
苦しみの渦中にいると、取り巻く全てが負のオーラに包まれ、何も見えない、聞こえない世界にいるのかもしれない。もし、このような時間を過ごされている方がいれば、どうか怖れずに現実と向き合う挑戦をして下さい。
ポストカードは今も大切に持っている。
見えない何かに怖れていた頃を懐かしく、愛おしくも思いながら。
いつか、また一羽のカラスが自宅のベランダにやって来ないかと。
そう願いながら、私は窓を大きく開けて待っている。