昨日ルノアールで
2013年3月22日 カテゴリー:未分類
首都圏で生活したことないあなたのために解説しておこう。
「ルノアール」とは正式名称を「銀座ルノアール」という、喫茶店のチェーン店である。
ただの喫茶店ではない。いや、ただの喫茶店なのだが、それは非常に寛容な喫茶店なのだ。
全てを赦し受け入れる、まるでマザーテレサのような喫茶店。それが「ルノアール」だ。宗教戦争や民族紛争などをしている場所には設置したらいいかもしれない。自分たちは何にこだわっていたんだろう。と武器を捨て抱擁しあう光景が異郷の地に出来た「ルノアール」で展開されるだろう。
(マガジンハウス感想記より)
この本は「昨日ルノアールで」というタイトルのエッセイ集である。
著者は、せきしろ氏。
映画界の中で最も難解作ともいわれる「去年マリエンバードで」という作品をエッセンスとして何か絡ませているのならば、虚実入り混じった人々の姿をあらわしているのだろうか。
とりあえず、ルノアールをこよなく愛しているのだろう。
個性派の珍客達を独自の目線で観察しているのだが、そのほとんどは多大な妄想を交えたショートストーリーである。
「喫茶室・ルノアール」
東京で過ごす時は必ず立ち寄るようにしている。
この全体を包むノスタルジックな雰囲気。
場所によって趣は違うが、私はいつもそのレトロな看板を見ると安心する。
私はこの店で30分だけ過ごすつもりだったのに3時間いたことがある。
何故なら、向かいの席に座った喪黒福造似の男が特徴のあるダミ声で、ここだけの話と儲け話しはじめ、それが100億という奇想天外なお話を始めたからである。
昼下がり。
ここは疲れた営業マン達の憩いの場。
皆、完全に爆睡している。
隣の席ではあきらかにデート商法に陥っている男性がいる。
何とか救済する方法がないか真剣に考える。
その手口が古すぎる、だが、ここは東京である。
何かここでは正体不明の輩がうごめいている。
だが無論、そのような方達ばかりでなく、ユニークを超えた興味深い濃いメンツが現れる。このルノアールの醸し出す独特の空気感は人々を自由に派手に振舞わせることが可能である。
贅沢に座席を設けているため、ゆったりとまったりと時は流れて行く。
どれだけ居眠りしても注意されず、分厚いタオル地のおしぼりが差し出され、
飲み物がなくなっても温かい緑茶がサービスでそっと置かれる。
最近おしゃれなカフェスタイルのルノアールもあるらしいが、昔から変わらぬ「喫茶室・ルノアール」を私はこよなく気にいっている。
このエッセイは、深夜ドラマにもなったが、けしてデフォルメされすぎてはいない。
書かれたようなそのままの姿の珍客がいることを私はここで長時間過ごし知っている。
そして、いやいや、もっと面白い方達がいるが、それが書けないのが残念である。