行列のカップル
2013年2月14日 カテゴリー:雑記
昨年の夏のある昼下がり。
某所で行列を発見する。それがネットで告知されていた有名雑貨店のオープンであると知り、30分ほどで入店可能かと思い参加することに。
私の前の若いカップルは既にお店のチラシを持ち、この店の後に行くランチをどこにしようかとスマホでチェックしながら、ずっと手を握り合う。
そのウキウキ感、これから買いたいモノを仲良くおしゃべりしている。
このカップルを見ているだけで若いっていいな~と。こんな行列すらハッピーに過ごせて、そのハートもピンピンこちらに飛んできます。
だが1時間ほど経った頃だろうか?
その行列は思いのほか進まず、気温は35℃は超えていただろう、炎天下ひさしのない場所での行列はジリジリと全身を焼付けていく。
彼女は、
「暑いねん、お腹痛いねん、頭痛なってきた・・喉乾いた・・たまらんしんどい・・・」と。
あれほど元気だったのに、しゃがみこんで可哀相なことに急に体調を崩し始める。
それでも、彼女はこの舞台を降りる気配は全く見せない。何故なら、このお店は彼女が行きたかったお店であり、彼は名前すら知らなかったのである。
私はここにいてくれと言われれば、意味があることなら、一日いることが可能なほど体力はある。だが、彼女は私の半分ほどの体型で、もう立つのがやっと、日焼けも気にし始める。
彼は一体どうしてこの危機を乗り越えたらいいのか?
フリルの日傘を持ち、公園のトイレにタオルハンカチを濡らしに走り、そっと彼女の首にあてがい、マテ茶を購入にも走り、愚痴を聞き、とにかく忙しい。
始まったばかりであろうデートに、この想定外の出来事は「また今度にしようか?」とは言えず、何とか彼女の体調とご機嫌をなだめようと必死のパッチである。
もうハートマークは飛び交うこともなく、おかしな空気に包まれていく。
どれだけ行列好きな日本人もある程度の店側の配慮がないことには、そこに待つことに意味があるのかと気力を失せるものである。私はカップルの成り行きも心配であり、頼まれてもいないが、先ずこのお店の情報収集に足を走らせる。
すると残念なことに店内はチラシとは違う商品の少なさと、レジは3台しかなく、ここも恐ろしいまでの長蛇の列。
レジでは笑顔で商品が入れられるが、どれだけ並んでいてもスピーディーに動く様子が全くない。店内の動線は複雑で入店しても同じような時間の流れでいるのである。
後に、このお店はすぐに臨時休業した。これほどの来店者が来るとは読みきれず商品の在庫を失い、再オープンに向け再スタートはしばし未定となり、スタッフ教育の見直しと、物流システムを一から立て直すという発表をした。
私は順番まで来たが行列からリタイアし、じっとお店を凝視していると、このカップルはレジの行列をものともせすショッピング。
彼女は元気を取り戻したかのようで笑顔でいる。彼の方は明らかに疲れが見えるがこのショッピングを遂行させることに成功し、しっかと手を繋いでいる。
彼はラガーマンのような体型で太い首から大量の汗を流し、彼女を日差しから守る大木のようだった。この炎天下で必死で彼女を気遣い、優しさを絶えず見せた彼にエールを送りたい。
この場所は、30年以上前は佇まいは静かで、でも何かクセのあるお店が隠されたようにあって、散策する人も少なく、徘徊していると、あちこちからウエストコーストのサウンドが流れてきた。
パームツリーの置かれたカフェがオープンし、ここでしか売っていないというジーンズや輸入モノのレコードを買いに行った10代の頃を思い出す。
懐かしさについ足を踏み入れ、行列しながら感じるこの場所。ドゥービーブラザーズも聞こえて来ないが、このカップルを眺めていると遠い過去を懐かしみ、しばし夕暮れに身を置いてみる。
ちなみに、この若きカップルは私の大切な友人である。
この店のあと、またもや某飲食店スイーツの大行列の店に向かったという。私は一緒に行動しなくてよかったと心から思いました。
だが、いつかそんな元気な彼らも歳を重ねて、過去の場所の思い出に静かに浸る時が来るに違いない。30年もたつと、あの街並みも、流れる音楽もまた大きく変わっているだろう。その記憶の一片に私も一緒に過ごせたことはとても、とても幸福に思います。