阿波踊り
2012年5月31日 カテゴリー:雑記
初夏を感じるような昼下がり。
某所、所要で特急電車に乗っていました。
車内に客は数名、まどろむような時刻。私は時折、睡魔に襲われながら、座っていたと思います。
向かいの席に座っていた落ち着いた趣の老女の方は静かに読書を。
しかし、電車が走り始めたとたん、やおら立ち上がり、踊り始めました。
そのキレのある足さばき、指先のしなやかな動き、女らしい腰使い。
音がなくとも、本物を見ていなくても、鳴り物やお囃子が聞こえてきます。
これは、あの阿波踊りを踊っているのだと。
しかし、何故、今この場所で然、踊り始めたのか?
夏近し、踊りの本番に向けて急に心が騒ぎだしたのだろうか?
年老いて故郷を想い、お里は徳島の方なのだろうかと。
車両の端から端まで、すり足を使いながら、見事な踊りをお見せになります。
その大胆なパフォーマンス。
このような場合、周りの乗客数名は、絶対的にその人物に気にはしながらも、老女とは全く目を合わせようとしません。
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0代のサラリーマンは、ずっと新聞の同じページを読んでいて、老女
が少しでも近くに、やってくると少し怯えた表情を見せました。
私は真正面にいたため、先ずは驚き、目をそらすことなど出来ません。何せ、老女は網笠を被った可愛らしい踊りのポーズを見せながら
時折、私に優しい、はにかんだような笑顔をくれるからです。
停車駅までの15分余り、休むことなく車内を舞台に踊ります。
興がのってくると、表情も変化、今度は男踊りと言われる激しい手振り
の動きも見せながら熱く踊り続けます。
しかし、停車駅に着いたとたん。
老女は突然、我に返ったかのような表情になり、静かに立ち去りました。
そう、まるで何もなかったように、そのショーは終わりました。
非常にローカルなこの路線で、仕事のことを考えながらも睡魔と戦いながらポーとしていたところに、いきなり現われた一人の老女。
一心不乱に踊るその姿で、一度も見たことがない阿波踊りに興味が沸きます。
一人でこれだけの何かを感じられるならば、連と言われる集団で踊られ
る阿波踊り。さぞかし圧巻でしょうと。
何事も一生懸命という姿。
それは人の心を打ちますが、時と場合によっては滑稽に見えることもありましょう。狂気乱舞するそのお姿からはエナジーのような思いが充分伝わりました。
その突然のパフォーマンスは乗客の方が心配し、危惧されているような方ではなく、老女には、沸々と湧き上がる思いがいつも心の中にあって、何か心を解き放したい気持ちに駆られ、ついスイッチが入ってしまい踊ってしまったのではないかと。
そう、老女の郷里はやはり徳島に違いないと思いたいのです。