コルセット
2012年5月05日 カテゴリー:雑記
私が20代の頃、知人が痩身関係の下着を考案しました。
それは身体を引き締め、痩身にも繋がるらしいコルセット。
約30年前、先ずは口コミで広げることが多かった時代です。
渡されたコルセットはボンテージ風でもあり、マリーアントワット時代のような前立てにはレースが施されゴージャスなもので紐を中央でグイグイ引っ張り、ジッパーも付いて、素材は厚い固いラバーのような素材でした。
私にモデルとして1ヶ月ほど着用して、その効果や使い心地を試してほしいと。
選ばれし者として、朝、喜び勇んで着用。
これでもかと思い切り紐をねじ上げました。
何かその鎧を着けると気持ちがすっきりしますと言いますか、
これはしっかと姿勢を正さなければならんぞと、キリリといたします。
気持ちはマリーアントネットになっていました。
ランチの時間、元町商店街で先輩とカツ丼とうどんのセットを食べて、観音屋のチーズケーキセットもいただき15時過ぎ、腹が膨らみ始めた頃でしょうか?
猛烈に胃のあたりに痛みを覚え、身体中、何か異様な暑苦しさを感じます。
ラバーからは汗がしたたり、痒みが収まらず、仕事に集中出来ません。
退社時間まで辛抱しようと思いましたが、見栄を張ってしまいワンサイズ小さめSサイズの着用が無理があったのでしょうか?
じわじわとキリキリと身体を締め上げる拷問のようです。
我慢ならず、こっそり、トイレでそれを外そうとしたところ・・・。
ジッパーの引き手が取れました。
焦って、紐を外そうとしたら、何故か紐はお団子状になっていました。
格闘すること30分。
不器用な私は全体像を確認するために、個室を出てトイレの洗面台の鏡の前で痛みと苦しさから倒れそうになりながら、汗だくで半裸状態になっていると一番口うるさい先輩の女子の方がやってきました。
「さっきからトイレを出たり入ったり、一体何をしているの!!!」 と。
私はその姿を見られたことで、また会社でイジられるネタになることを思うと 何故、早退しなかったのか悔やみました。
しかし、先輩はわかってくれる大人の女性。
状況を見た瞬間、先輩は、ジッパーの引き手を引っ張るニッパーのようなものがあると。
だが、ジッパーだけが解決しても紐は身体を被いつくし、脱出不可能。
その複雑に絡み合った紐はハサミで切らなければならんと言います。
このコルセットは返却しなければならないので、傷はつけないでほしいと。
弁償することよりも、試験段階の商品に傷を付けることを恐れました。
私は着用中、紐が緩むことがあって、おかしな結び目にしていたようです。
先輩は何も心配はいらない!文句を言われたら私が責任を持つ!お金も出したる!と
今そこにある危機を優先して、パタンナー室へ走り、断ちハサミを取って来られ、一瞬でザックリと切りました。
その鎧から解き放たれた瞬間。
腫れ上がった腹をさすりながら、やっと普通に息が出来るこの感覚。
マリーは大変だっただろうな~~と。
胸にたまった汗は尋常ではなく、これはサイズと紐さえ、いい塩梅に加減しておれば
いい商品だったかもしれんと。
コルセットは責任を取って弁償しようと連絡を入れたところ、
他のモデルからクレームが続出したらしく、ラバーが粗悪で湿疹だらけになったり、セットで腹に塗るクリームを渡すのを忘れていたとか・・・。
もう差し上げますと。
無論、コルセットは破壊されたので無用の長物。
会社がアパレルメーカーなので縫製をチェックするといいながら、そのコルセットは しばし、笑いのネタにする為だけに、先輩の机の横にしつこくぶら下っていました。
先輩は私が結婚退社するその日まで、おかしなモノを身に付ける後輩の顛末を語り続けました。
モノではなく心身を鍛えなさいとヨガの呼吸法を学びました。
しかし、アホな後輩が己の失態で窮地に陥ったとしても、関わった以上は即座に「責任を取る!」と言って下さった先輩の言葉。
一生忘れないでしょう。
あの言葉は人生の教訓にさせていただいています。
学校を卒業して初めて本物の仕事をする大人達と出会いました。
当時は何を言われても知らないことばかり、数え切れないほど仕事の失敗を繰り返し、どれほどの無礼、迷惑をかけたかわかりません。
でも、どれだけ怒鳴られても、そこにいつも愛情があったからこそ、私は無能にも関わらず一度も仕事を辞めたいと思わずにいられました。
不況の時代です。
仕事のスタイルも変化をして、個人主義もあるかと思えば、紙に書かれたマニュアルを渡されて一語一句その通りですすめるやり方も多くなってきました。
若い時ほど、その始まりは重要かもしれません。
仕事を通して、どれだけかっこいい信頼出来る大人達に出会えるのか。
私の物事の全てが、この時代を支えて下さった方達のおかげだと深く感謝しております。