依頼者の町に報告へ
2012年4月16日 カテゴリー:雑記
その降り立った駅は何もない、静かな街でした。
依頼人宅への報告書を持参するため2時間以上も電車に揺られながら時折、電車の車窓に現れる渓谷、渓流の美しさに息をのまれました。
約束の時間に1時間も前に着くのは電車の都合だけではありません。
相談員として心の準備時間が必要なのです。
その結果を待つ依頼人のことを考えながら、どこかで静かにお茶を飲んでいます。
地方に行けば駅の改札を出ても、コンビ二すらなくて、早めに到着すれば しばし身を置く場所を思案することもあります。事前にインターネットでチェックしていた喫茶店もなぜか休業され、かつては華やいでいたであろう残された商店街は全て廃業されています。
ただ、この職業も長く続けていると、どんな所へ行っても何故か必ずお店や休憩する場所を見つけられる能力が付き、とにかくひっそりといます。
15分ほど歩いて、古風な喫茶店を見つけました。
しかし、ドアを開けても誰もいない、ソファーに丸まって寝ているおじいちゃま一人。
ここは自宅兼喫茶店、用事でもしているのかなと、しばし静かに店主を待ちます。
おじいちゃまは微動だにしません。
地方新聞を読むことが趣味の私です。
岩手の震災時、祈り続けた僧侶の方の1枚の写真がありましたが、その姿は心を打つ姿でネットでもアップされていますが、その取材記事を読んで、まだ僧侶は20代だったことを知りました。新聞を読み終わった頃、隣で爆酔していた、おじいちゃまが飛び起きました。
「いらっしゃいませっ!!!!!」
まるで眠り猫のようなポーズのおじいちゃまは店主でした。
突然に大きな声を出されたのでこちらもびっくりです。
更に驚いたのは、カウンターの奥にこれまた小さなおばあちゃまが現れたことです。
どうも二人ともお眠りになっていたようです。
都会では考えられないお客様への対応ですが、私は嫌な気分にはなりませんでした。
出されたコーヒーは絶品、コーヒーカップも手作り、椅子もテーブルも全ておじいちゃんの作品です。
こんなのどかな静かな町にでも、都会以上に隠された辛い悩みは多くあります。
それでも生まれ育ったこの町を出て行くことも出来ず、一生を過ごさなければならない。
町では皆、子供の頃からの知った顔、お世話になった人ばかり。
何かの疑惑はすぐに噂になる敏感な環境にいます。
それを悟られない様に笑顔で暮らして行かなければなりません。
依頼人の住む小さな町での報告の面談は車に乗る瞬間から神経を使います。
ちょっとそこのレストランでお話と言っても知人縁者がされていることもあります。
余り神経質にならなくともと思われるかもしれませんが、そこまで考えなければ暮らしていけないのです。
報告は依頼人の車中で終えました。
何もない場所だと思いがちですが、そこには人々の暮らしが都会よりも深くあります。
コンビ二がなくとも小さな商店があり、無人の野菜販売や、元気がなければどうしたのかと声をかけてくれる人間関係も残っています。
ここは何もないところですと依頼人が言われました。
いいえ、そこには都会にはない人間味が溢れていました。
夫婦のあり方や家族の繋がりも非常に強く残っています。
美しい山並みと多くの自然が残り、この町は何か懐かしい気持ちにさせてくれてくれました。2時間半後、大阪に着くと普段は余り感じないのに混雑する人込み。
歩きながら携帯電話を絶対手放さない人達、その群集をかきわけて歩くことに疲れました。
ご縁があって依頼人の住む町へと私は多くのところを訪ねました。
その後のことがいつも気にかかります。
どうかお元気でいて下さい。
その言葉は短くもありますが、心から伝えたい言葉です。
どうかこの町でお元気でいられますようにと。
そう願ってお別れしています。