母の庭
2012年3月01日 カテゴリー:調査記
遠方に住む娘が実家を久しぶりに訪ねる。
今、母の中で何かが起きている。
そう思ったきっかけは自宅の庭だという。
庭造りは母にとって、かけがえのない趣味でした。
家は立派ではないのですが、裏庭があって、丹精込めた花への手入れをしていて花好きな人が迷い込んで来ることもあり、種をわけてあげたり、イングランド風のスタイルでお茶を飲めるテーブルもあります。
庭造りは自然を相手にするわけですから、大変です。
しかし、手入れをすればするほど花々や草木は、その姿をもってきちんと返してくれます。
散歩中、手入れが行き届いた庭に元気に花が咲き誇っているだけでここに住んでる人は、本当に豊かな生活をされているんだと、見ているこちらも気持ちを和ませてくれるものです。
いつからか、全く庭への興味を失い、水やりもしなくなった母。
花も庭木も枯れ果て、庭はかつての彩りをなくしていく。
その姿に別居される娘さんは、母が家庭に全く心が向いていないのだと、或いは何か心身に異常をきたしているのではないのかと心配になったのです。
母に問い詰めてみても、何も真実を知ることが出来ない。
父は母がどれだけ家のことが大変でも、当然のように思ってるんです。
庭造りも興味がありませんから、荒れ果てた庭を見たところで何も察しないと思います。
いつからか母とうまくいっていないことはわかっていたという。
母はその寂しさ、空しさを埋めるためなのか、ある人と関係していました。
娘といえども家庭をもった同じ妻としての立場を考えると父の振舞いや言動。
母の置かれた環境も理解して、混乱するばかりです。
ただ、不貞行為はどんな理由であったとしても、続けるといつか全てを失うものです。
一時の安らぎは永遠ではありません。
それを問いただした娘さんは妊娠中でした。
依頼者である娘さんから見せられた母の庭の写真の数々。
絵本作家、ガーデナーでもある、ターシャ・テューダーを思い出しました。
庭に置かれた椅子やテーブル、アケビの蔓で編んだカゴ。
絵本の中にいるような世界です。
これほどまでに美しい庭をつくり、自然を相手に出来る母なのです。
92歳で亡くなったターシャ・テューダー。
今も世界中にファンを持ち、飄々として悠然と語っておられましたが、人生に何度も絶望して晩年にようやく自分らしい生き方を全うし、あの美しい庭を造りだしたそうです。
たとえ一時、何かに心を奪われたとしても、このままではいけないと思うようになるようです。
大好きだった母の庭。
迷い込んだ世界にいる母を救えるのは娘さんの強い愛情でした。
いつか落ち着いて、庭に花が咲いたら写真を送って下さいと約束しています。