母からの依頼
2012年1月26日 カテゴリー:調査記
別居する息子に女性がいるらしいと義理の嫁から聞かされました。
息子はたまにお金の無心をしにやってきますが、最近様子がおかしいとも感じます。
何か息子に起きている・・・・そう感じるのです。
嫁はすでにこのことが原因でウツ状態がひどく、今は嫁に内緒で依頼を考えています。
出来れば体調がすぐれないので遠方ですが自宅に来て欲しい。
自宅のリビングに通されて椅子に座り、初めて気がつきました。
母が全盲に近いことに。
ある病で失明し、視界は輪郭しかつかめず、いずれ視界さえ完全になくなってしまう。
私は非常に慎重になりました。
契約書の取り交わし、報告書の写真説明など全てが口頭でしか出来ない。
これは当社の全てに信頼をいただかないことには成立しません。
しつこいくらいに調査の内容、契約事項の説明、想定外のことが起きた場合の連絡方法。
依頼者以外に報告書を確認出来る方はいるのか。
通常の場合より、時間をかけて説明する私に母は静かに言います。
「あなたを信頼します。見えなくてもわかります。」
私が母の指先を支え、差し示す先に契約書にサインをされました。
1人暮らしをされる自宅はかつて、知を探求していた方であろうと蔵書の類でわかります。
近所をスケッチした絵も廊下に並んでいます。
並んだ器も高価なものではない、でも全て味のある趣味人を感じます。
高層マンションの窓から美しい夕焼けが現われ、じっと眺めている私に母はそれがもう見えなくなったことが一番悲しいと言うのでした。
調査の結果。
母がそうあってほしいと願うものではありませんでした。
しかし、何かが息子に起きているとわかっていた母です。
どのような場合も報告書は必ず作成しますが、女性の風貌、家族関係、会っているシーンを口頭で説明。
写真一枚のシーンの重みをこれほど感じたことはありません。
息子を自宅に呼び、事の顛末を尋ねると、息子は母の気迫に押され、もう会わない。
離婚までは考えていないと子供のようにうなだれるのでした。
依頼背景にあるものは、何より嫁を思い、孫を思い、崩壊寸前の家族をなんとか取り戻す事が出来ないのか?
その一心でした。
そして、ただ思い悩んで気を患うだけでなく、起きていることを見極めるその目。
それがどんな過酷な状況であっても、奮い立たせる気力。
真実を知れば立ち上がるしかなく、解決方法も整理されていきます。
声だけの報告しか出来ず、果たして信頼を得ることが出来るのだろうかと一抹の不安もありましたが
何ら変わりはなく仕事をすることが重要であって、気持ちは見えなくても必ず伝わるのだと。
最後にお別れしてから数年経ちます。
出来る事ならもう一度、お話したい依頼者です。