夫の帰る場所
2017年11月08日 カテゴリー:調査記
夫はいつからか帰宅しなくなった。
そうかと思えば数日自宅にいることもあって、そんな生活に疑問に思わなくなって数年たつという依頼人だった。
夫婦には様々なライフスタイルがある。週末婚をしている人もいるだろうし、お互い別居しながら夫婦として自由な生活をしている人もいるだろう。
だが、それもお互いが納得した状況であればいいが、何か不信を感じたり、一瞬しか感じられない時を一緒に経験出来ないということは少しづつ不協和音が始まっていくものなのかしれない。
「結婚した時はもちろん一緒に暮らしていましたが、ここ数年は仕事が忙しくなったという理由で会社の近くに小さなワンルームマンションを借りたことがきっかけで、週末は帰宅していたのがだんだん月に数回しか帰宅しないという逆転生活になっていきました」。
「そんな生活も気楽でいいと思ってしまい深く考えずにいたものの、ある時にそんな時間の中にいることに深い寂しさを感じるようになっていきました」。
夫に何気なく、この生活を正すことを提案したところ夫は即座に今の生活を変える気持ちはないと言い切り、深夜用事があって電話をしても出ないこと多くなってきたという。
何か心にトゲのようなっものがずっと刺さっている。
心のモヤモヤを晴らしたい。
夫の寝泊まり先の住所すら知らないという妻は義理の母が倒れた時に連絡が取りにくいことがあり、このままではいけないという気持ちが固まったのだった。
そして、家に帰らなくなったことは実は別居先で誰かと一緒に暮らしているからではないかと思い始め、ただ妄想の中にいて何の確証もなく相談にやってきた依頼人だった。
多くの人がそんな生活は普通ではないと言われるも、夫婦の事は夫婦でしかわからないもの。その静かな感情の高ぶりの底にあるのは自分が生み出したことも原因で孤独の中にいる妻だった。
そして、その不安は的中し、その居所には半同棲をする女性がいたことが判明する。
どっちかつかずの関係は、どちらの女性に対しても不幸を与えるだけで、離婚を切り出すこともなく、今を楽しみたいだけの男性特有の深い意味があったとは思えない関係だった。
かれこれ 20年ほど前の話になるが、私は依頼人の住む町のとある駅で出会い、無人駅のような駅で降りればそこは見渡す限り田んぼしかなく、あぜ道の向こうからやってくる車を見て、互いに手を振ったことを思い出す。
小さな町で、ここは生まれ育った町のようで、どうやら知り会いばかりで、車で走行中何人にも挨拶をする依頼人だった。
運転中、急に泣き出してしまい、自分の居場所はここしかないのですと、結婚だけでないこれまでの人生を語り始め、夕刻の迫りくる夕闇を眺めながら小さな祠の横で車を止め話を聞いていたのだった。
その場所は一面がススキの葉が群生し、黄金色に光りを放っていた。どこかで誰かが子供を呼んでいる声がして、いい町だと思った。
夫の帰る場所を作りたい、そう言った妻は今頃どんな暮らしをしているだろうか。降り立った駅をグーグルマップで探してみるがどうしても思い出せないでいる。