人を尾行すること4
2016年2月04日 カテゴリー:調査記
かつて、10日間の尾行実習を経験したことがある。
座学を終え、それはいきなりだった。
「さて、今から時間は未定ですが、
私がこのビルから出発するので写真撮影はいいので尾行してください」。
私とは当時の上司だが、ビルの出入り口は一か所。だが似たような男性数名がビルから出たのに紛れ、その一瞬を見落とし、その後、仕切り直されたが服装を全身チェンジされたことで、これまた見落とす。
この失敗はお許しいただきたい。
探偵志願で入社したわけでもなく、相談員として入社し、人生で一度も尾行、張り込みなどの経験はない。
私は見失うたびに電話し、すでに動いた場所を教えられるが二回の聞き返しは許されず、耳を研ぎ澄まし必死の形相で向かうがそこは夕刻の巨大都市・東京・新宿。
マツキヨ某店でなんとか確認し、ホッとして出口で待機していると、実は裏口があったようで、またもや見落とし、もう、もはや見落とし三昧なのである。
その後、対象人物は原宿の竹下通りから、ウラハラ界隈の某ビルに入室するが、無論、号室割り出しなど頭が回らず。寒空にいつ出るかもわからず、3時間近くここで張り込んだ。
同じように研修を受けていた人は20名ほどいて、今後の予測をつける人や、気が短いのか、このいつ終わるかわからない尾行に激しいイライラをぶつけはじめる人もいた。
その日は星がきれいな夜だった。
私は都会でも星がきれいだなと、しばし眺めているとこの気の緩みで、またもや決定的瞬間の出入りを見落としてしまう。
そして、入った時は確かに一人だったのに出る時には女性を伴い、腕を組んで出てきたのである。この想像もつかない展開に混乱するがカップルと称するふたりはバーで明け方まで過ごして終了した。
当時は30代だったので足腰には充分自信があったが、歩き方を行き先不明の他人に合わせることに、ただ疲労困憊した。
しかも、これは単なるお遊び程度で、一度も見失わず最後まで着けきり、経路を覚え、全ての行動を完璧に撮影しないことには仕事にならないことに眩暈を覚えた。
その後、全て違うパターンで、開始場所も変え、満員電車に乗り、タクシーを使い、写真のみの確認からの尾行と内容のハードルを上げ、最後には報告書を提出をする。
徐々にペースをつかみ流れに乗り、全ては準備ありき。調査員としての服装、身体。交通機関の全てのカードを用意し、常に一歩先を予測し、本番を想定し何がいけないのかを完全に身体にたたきこんでいった。
私が日頃、調査員方を愛してやまないのは、このわずかな期間の貴重な経験があったからで、この経験のおかげで、調査員が日頃どれだけ大変であるか理解出来るのです。
それはまるで昨日のように思えてしまうが、当時はまだ六本木ヒルズタワーはなく、尾行中はどこの街でも宇多田ヒカルのオートマティックが延々と流れていた。
私は何かでこの曲を聴くたびに、一気に呼び覚まされるようで初心忘れるべからずと、あの日の彷徨った夜とエールをくれた星空を思い出す。