ドッペルゲンガー現象
2015年8月17日 カテゴリー:雑記
私とそっくりな人がいるらしい。
家族なら、どれだけ離れていても見間違うこともないはずだが、ある朝、自宅近辺のバス停に私が立っていたという。
道路を挟んだ向かい側にいた家族は、見送った時間から随分経っているものの急に予定変更になりバスに乗って、どこか面談先にでも向かったのだと思い込んでいたようで、声はかけず姿を見送ったそうである。
帰宅してから、「どこ行ってたん?」
と聞かれた。
長年、仕事柄、これまで家族は急遽遠方へ出向くことを小耳にしても、一度も行先など聞いたこと等はなく、この日何か胸が騒いだのだろう、帰宅してから、めずらしく聞いたのである。
その後、あろうことか、家族は3回、ご近所で遭遇したようだ。
どうやら、はつらつと颯爽に動き回っているようで、よく見ると私より若かったという。
自分に似た人はこの世の中に3人いると言われているが、この話を聞かされた時に家族をも惑わす私に似た人が気になって仕方なくなった。
小さな町に住む私は学生時代からの同級生が今もこの町に多く住んでいて、少なくとも駅で出会う人も皆知り会いばかり。なので、この彼女は最近この町に転居されてきた人ではないかと察するのだった。
可能ならば家族に写真撮影をお願いしたいところだが、そのせいで近所を歩く時はまわりを充分に確認するようになった。
そんなある朝。
町一番の心臓破りの坂と呼ぶ坂で電動自転車で軽快に走り去る女性とすれ違った。
スーツがピチピチの黒髪のおかっぱ頭。
フルラのバックが前かごにのせられて、一見キャリアウーマン風。
だが、体型は転がった方が早いだろう・・ってな感じの女性だった。
ご機嫌の朝だったのだろうか。
何か鼻歌を歌っているのような満面の笑顔でいたような気がした。
私はこの人が私に似た女性だと察し、追跡を開始した。
山道はまだ舗装が充分ではなく、このケモノ道を爆走するのは我々だけである。
坂を登りきると道幅は広くなって、右に山、左に川。
高台から町を見下ろせる絶好の風景は毎朝私に大きな感動を与えてくれるが、彼女は風景などお構いなしにフルスピードで爆走。私も同じく電動自転車をハイスピード3にスイッチオンにした。
これまで己の体力を鍛えるために電動の使用は控えスピードは1を多用するようにしていたが3のハイパワーに今さらながら驚き、ついぞ彼女は踏切の遮断機をギリギリを神業的に超えた。
調査員ならば、このような事態でも瞬時に先読みして、追跡していただろうと地団駄を踏んだが、全くもって仕事ではないので、52才、ここで無茶をして転倒でもしかねないと踏切をやり過ごした。
女性は駅に向かったようで、ホームにいる姿を発見する。
私は反対のホームから出来るだけ接近して凝視した。
一瞬、ホームに山里の風が頬を撫で、何羽もの鳥がさえずり出し、見上げると昨夜の台風の過ぎ去った後の突き抜ける青空。私は10年前の自分と再会しているような気持ちに包まれた。
私の熱すぎる凝視に気が付いたのか、彼女も私を見つめ、その瞬間目が合ったがホームに電車が入ってきたので見送るように別れを告げた。
家族に一連の流れを説明したところ。
「暇やったん?」
と言われた。
ドッペルゲンガー現象をご存じだろうか。
ドッペルゲンガーとは自分の姿を第三者が違うところで見る現象で、自ら自分の分身を発見すると命の寿命が尽きるとも言われているそうな。
家族にその恐ろしい超常現象を伝えたところ。
「ようみたら全然顔ちがうし」
と言われた.。
そもそも、その話を熱心に話したのは家族であり、私は下手をすれば転倒し事故でも起こしかねない状況だったのである。
納得しないような気持ちになったが、だがこれも似た者同士のご縁。
もしお会いする機会でもあれば、趣味・嗜好・好きな音楽・映画などのお話や、いやはや、あなたはどんな人生を送っているのかなど聞いてみたい。
ちなみに彼女のフルラのバックにハートのスワロフスキーのチャームがぶら下がっていた。
これは某ブランドの限定数の入手困難なオリジナル商品である。
私も持っていて、フルラのシンプルすぎるバックのポイントにしていて一層驚いてしまった。
だが、いつ再会出来るかもしれず、その際に会話の糸口にするため、常にバックの中に忍ばせているが、全く気配すら感じず会えないでいる。