エンジェルフライト・ 国際霊柩送還士
2014年4月03日 カテゴリー:雑記
「エンジェルフライト」 著者 佐々涼子
この職業を紹介する番組が見たのはいつだろう。
社長である女性が紹介されて、登場した瞬間。
歩いて数秒、着席するだけなのに、ただならぬ気配を漂わす。
その物腰と隙のない表情は、この職業のすさまじいまでの死と常に向き合っていることを現わしていて、笑顔など余り見せなかったが、深い優しさと強く逞しいパワーを放っていて、とてもいい顔をしていた。
「国境を越えて遺体や遺骨を故国へ送り届ける「国際霊柩送還」という仕事は、エアハース・インターナショナル株式会社が日本初の専門会社である。エジプト・ルクソール襲撃事件の被害者、パキスタンの車両転落事故の犠牲者、イラクでの外務省職員襲撃事件における職員の遺体を搬送。会社設立以降はスマトラ島沖地震、パキスタン邦人教職員殺害事件、ミャンマーでのフリージャーナリスト殺害事件、アフガニスタンの国際援助団体の職員殺害事件の国際霊柩送還を担当。新聞に報道されるような大きな事件、事故では必ずといっていいほど彼らの働きがあるのだが、それが表に出ることはない。なぜならそれは死を扱う仕事だからだ。」
(エンジェルフライトより抜粋)
日本人だけでなく、日本で亡くなった外国人の自国への遺体の修復、搬送を行う。その国の持つ宗教、倫理観、死生観が全て違うため、信じられないことに遺体が日本に到着した際に、ひどい場合はトイレットペーパー数十個が埋め込まれているだけのこともあり、遺体を確認するまで、その状態が一切わからないのだという。
修復は常に時間との戦いであり、どのような状況で日本に到着されるのか一切不明なので、現地で心ない遺体ビジネスに運ばれた遺体は想像もつかない形で受け取ることがあるという。
仕事の難易度は予測されていたにも関わらず、遺体と対面して涙が止めどなく流れる。
プロでもその気持ちを失えば、この仕事は完璧に出来ないだろう。
不慮の事故で命を失っただけでなく、身体までも失いかねない死者との向き合いの時間は極限までの緊張感と、何よりその慟哭の中で遺体を待っている依頼人への配慮。
死を扱うことの職業はタブーとされていたが、遺体を修復する職業として、映画「おくりびと」で、古来から伝承された様式美や、死しても顔を作り上げることの意味を深く知る機会にもなったが、映画と現実は全く違いますと、本の中で静かに答えるのだった。
突如荒れ狂う航海に巻き込まれ、暗黒の闇の中。
それは全く予期せぬことで、ひとりうち震えていた。だが突如、奇跡が起こり命の水が差しだされ、喉を潤し、その水は優しく全身を徐々に潤していく。
身を心を整え、ようやく太陽の日差しに耐えるまでの体力を持つことが出来るように。
見渡すと到着する港が見える。そこに家族が愛する人が涙を流しながら待っている姿も見えるが、もはや声を上げることは出来ず、横たわり、心の目を閉じる。
一番会いたかった家族の元へと静かに船は向かって行くのだ。
私にはこの本を読んで、この職業をそう思えたのだった。
このような形で命を終えることの無念さと、残された家族も肌をさすり、髪をなで、手を握り、最後に会った時の姿で抱きしめることを最後に願う。
全編、涙なくして読めない本であるが、職業として、人間として、心を尽すということは一体どういうことなのかを問いかける一冊である。