トマトダイエット2
2013年3月18日 カテゴリー:雑記
ある時から、テレビの音量が大きくなり、電話の会話、顔を見ながら話していても何度も何度も聞き返すようになり、母が随分、耳が遠くなったことに気がつく。
普段どれだけ元気でいても、もう以前とは違うのだと感じ始める。
隣室にいる母に「今度の休みは何か美味しいものでも食べに行こうか・・・・」と。
小さくささやいてみる。それは母に向かってではなく、自分自身への問いかけでもある。
「キタにする~ミナミにする~~~いつにしよっか!!」
???
これは一体どう言うことなのだろうか?
自分にとって興味のあることへの会話は、たとえ鉄の扉があろうとも、非常に研ぎ澄まされ聴覚が瞬時にキャッチ出来るようである。
まして、あのよく出かける「天神橋筋商店街」と「心斎橋筋商店街」との区別が全くつかない者に、大阪のキタとミナミの違いがおわかりなのだろうか?
そして、全ての女性がそうであるように、一度約束したことは必ず遂行させなければならんので、軽い思いつきで発してならない。
先程まで猫の腹をさすりながら、布団の上でまどろんでいた母は急に機敏な動きを見せ、テレビ台に置かれている「いつか行きたい店」と書かれたチラシの裏を綴じたメモ帳を熱心に凝視し始める。
その週末、母の大好きなブッフェ、要するに食べ放題へ向かう。
毎回そうだが母は、ほぼ全種類を制覇。私は、ただ、ただ脱帽。
このような席で絶対忘れてはならぬのは、あのトマトであろう・・・。
これは必ずどこの食べ放題にも置いてあるが、母はこれを食べることで総カロリーが消滅すると固く信じ、多めに食す。そして、安心するのかスイーツも全制覇。
私はどれだけ人と交わり、その人生を噛みしめ経験をしたとしても、
数多くの本を読んで知恵をつけ、その真実を知っていても、
この母を未だ納得させることが出来ない。
たとえ、一度も社会に出て働いた事がなくても、家庭をつくり上げた者は全てを知る。そしてその何か底知れぬパワーと行動力。あの誰にでも向けられる笑顔と恐るべしこの食欲。
人類最大の危機が訪れた場合、裏庭に置かれたヨドコウ倉庫にある謎の食糧の大量備蓄品の警備を怠らず、右手で鍋を煮ながら、左手に斧を掲げ、その身一つでサバイバル出来るような圧倒的強さを持っていると言ったら言いすぎだろうか。
今とは時代が違うといえばそれまでだが、この年齢が持つ女性としてのまっとうな生き方は私の人生の指針となり、私は母親としてだけでなく、女性として尊敬している。
ただ、いつもこのようなブッフェに行くと母と喧嘩になる。
席を立ち、ドアを出て、100メートルほど歩いた時だろうか、母は一歩も歩けないほど大きく腹が膨らんでしまい、「苦しくて・・私もう歩かれへん・・」と。
午後から、我々が一番行かねばならない父の墓参りを残し、その墓石までの道のりへは、もはや一歩も踏み出せそうもない。
ブッフェを出て、西日本一といわれる高さのビルを見上げながら、どんどんおかしな顔色になっていく母に私は今一度問いたい。
そのトマトダイエットは間違っていると。